<第9回静岡県親子わくわくキャンプ2010.10.30~31> どもりについて、みんなで語ろう
第9回静岡県親子わくわくキャンプでの、僕と子どもたちとの話し合いの様子を紹介します。
子どもたちは、全員で18人。話はあちこち飛びますが、子どもたちはみんな、集中していました。深刻な悩みの相談ではなく、なんとも楽しそうで、自由で、弾んだ話になりました。僕は、この子どもたちの輪の中にいることが幸せでした。今、読み返しても、あのときの様子がありありと思い浮かびます。そして、5、6人の子どものことは、なぜか鮮明に覚えています。いい思い出となりました。僕の33年間続けている吃音親子サマーキャンプは、学年ごとに小さなグループに分かれて話し合います。なので、このような大人数と僕ひとりで向き合うのは初めての経験でしたが、なんとかなるものだと思います。それもみんな、子どもの語る力だと思うのです。(「スタタリング・ナウ」 2011.2.20 NO.198 より)
<第9回静岡県親子わくわくキャンプ2010.10.30~31>
どもりについて、みんなで語ろう」
治したい?
伊藤 ここはお話をするところです。遊ぶところではありません。はしゃいではいけません。OK? みんなの中で、こういうことを話してほしいとか、聞いてほしいとか、この紙10人書いてくれました。書いてくれた人の話を優先します。でも、話し合っていく中で、これはみんなと一緒に話したいとか、聞きたいことがあったら、出して下さい。じゃあ、簡単に答えられるところから、先にいきます。ちゃんと、全部の質問に答えるからね。さて、何からしようかな。一番簡単なことからしようか。
「僕は連発と難発をもっています。一度にふたつとも治せますか」
「僕は、連発と難発を持っています」って書いてあるけど連発ってどんなんや?
子ども おおおお、となる。
伊藤 そやな、ぼぼぼぼぼぼくは、れれれれ、これが連発やな。僕は連発と難発を持っています。難発って何や。
子ども さささ・・・、
伊藤 それは、散髪やんか。治したい? ねえ。どもり治したい人?
(18人中14人が挙手)
伊藤 あれ、治らなくてもいいのか。
子ども 別にいい。
子ども 治す方法知ってるし。
伊藤 あれ、治らんでええんか。
子ども うん。
子どもたち えー。何でー。
伊藤 すごいねえ。それは、何でや?
子ども 別に。学校生活で、来週くらいに、学年の司会やるし、発表とかも1日3回はやってるし。
伊藤 すごーい。
子ども 僕だって、1日8回は発表する。
伊藤 8回も発表するの。すごいねえ。数えているのか。それで、そういうふうに発表するのに、どもっているけれども、別にいいの?
子ども みんな普通に聞いてくれる。気にしない。
伊藤 気にしないの?
子ども 気にしない。やりたいようにやる。でも治したいっていえば、治したい。
伊藤 治るんだったら治したいけども、別にまあいいかとも思っている。で、君は治したいとはあんまり思ってない?
子ども ぼく、全然、思っていない。
伊藤 全然だって。
子どもたち えー。すごーい。
伊藤 それは、何でや?
子ども だって僕、どもるのが自分だと思うから。
伊藤 なるほど。どもるのが自分だって思っているんだ。何歳ごろからどもってたの?
子ども 5歳ぐらい。
伊藤 5歳からどもっていて、今いくつ?
子ども 10歳。
伊藤 10歳ということは、5年間どもっているわけだ。5年間どもっている生活に、もう自分が慣れているのか。5年間ずっとどもっているから、もうこれが僕だと思っているんだね。
子ども はい。
伊藤 すごいよね。そう思えたらいいよね。
子どもたち うん。
子ども どもってても、自分がどもっていること、みんな知ってるから。
伊藤 知ってるよねえ。
子どもたち うん。
伊藤 隠せていると思う人? 今、みんなは自分のどもりを知っているからと言ったでしょ。でも、クラスの友だちは、僕のどもりのことを知らへんって思う子いる?
子ども 絶対知ってる。
伊藤 知ってるよね。ということは、友だちはみんな、自分のどもりを知ってるわけだ。
子ども 知ってる。
子ども うん。
子ども 転校して、新しい友だちは知らないけれど、あとは知ってる。
伊藤 新しい友だちは知らないけれど、前の友だちは知ってる。転校して、今どれくらいになるの?
子ども 1か月。
伊藤 じゃあ、そのうちばれるな。
子どもたち はははは。
伊藤 そのうちに、どもりがばれるなということやな。
子ども うん。
笑われたらどうする
伊藤 みんながどもること知っているから、別にいいと思っているのか?
子ども たまに笑われる。ちょっと真似されるから。
子どもたち そう。そう。
伊藤 真似される。真似されて笑われたら、どうするの?
子ども 逃げる。
子ども やめてって言う。
子ども 無視する。
伊藤 そうか、無視するのか。無視する人?
子どもたち はーい。
伊藤 他には? 他にはどうする?
子ども 無視して、その場から逃げる。
伊藤 そういう場から逃げればいい。これ、すごく大事よね。真似されたり笑われたりするところにずっといたら、しんどいじゃん。その場から逃げて別のところに行ったらいい。
子ども やめてって言う。
子ども そうそう、でも、やめてくれない。
伊藤 やめてと言って、向こうがやめてくれないとき、どうする?
子ども 逃げる。
子ども もう一度言う。
伊藤 その笑ったという人、何人ぐらいいる?
子ども そりゃ、みんな。
伊藤 そうだけど、目の前にいる子は何人くらい。うーん。言い方が難しい。そりゃ、みんな笑うだろうけど、10人が10人、わあっと笑うんか。
子ども 違う。そういうことじゃない。
子ども 一人だけど。僕が話すと、かなりの人が笑う。
伊藤 はあ、じゃあ相手は一人の場合が多い?
子ども うん。
伊藤 一人か、二人ぐらいだったら、ちょっと捕まえて、『何で君、笑うの?』って、聞いてみたら?
子ども あー。まあ。
伊藤 どうして君、笑うの? 笑っておもしろいの? 笑って楽しいの? 何のつもりで笑うの?一回聞いてみたら。
子ども そうだね。そう言えばいいんだ。
伊藤 そう言えばいい。どうして君、笑うのって。それで、どういう可能性があるやろう。そういうふうに聞いたら。
子ども 無視されそう。
伊藤 けれど、これが、僕のしゃべり方だから、笑わないでくれって言う。ただ、笑わないでくれって言うよりも、まず一番最初の最階で、何で君は笑うんだ。笑う人間を調査・研究しようよ。
子どもたち おー、調査研究。調査研究か。
伊藤 こいつは、何で笑うんだろう。人が嫌がることを笑う人間って、どういう人かな。
子どもたち 悪い人。
伊藤 あまり良くないよな。そんな良くない人間のために、こちらが気分悪くなったりするの、損だと思わない?
子ども あー。だよね。
伊藤 こんなしょうもない人間に、何か言われて、うえーんと泣くと損じゃん。損するよなあ。それなら、そんなこと、無視してもいいし、やっつけてもいいし、いろんなやり方がある。なっ。
子ども うん。
やっちゃだめ
伊藤 今の話は何の話から、始まったんだっけ。
子ども 治りますか、という話。そうだ。治さなくてもいいという子がおったんや。
子どもたち おった。おった。
伊藤 で、治りたいという子は、治せると思っているの?
子ども うーん。
伊藤 治す方法を知ってると言ったやん。
子ども うん、知ってる。
伊藤 おー、それちょっと教えてよ。
子どもたち おー。教えてー。
伊藤 教えてほしい、そりゃそうだよね。
子ども 腹式呼吸。
伊藤 おー。腹式呼吸か。
子ども 腹式呼吸?
伊藤 腹式呼吸。まずは、おなかで、息をするんや、はー、はー。
子ども よく分かりませんけど。
伊藤 これは、だめ。してはだめ。
子ども えっ。そうなの?
伊藤 だめ。こんな練習をしちゃだめ。
子ども そうそう。(ことばの教室の)先生に聞いた。
伊藤 こういう呼吸練習とか、腹式呼吸の練習をしたって、何の役にも立たない。そんな方法、誰に教えてもらったんや?
子ども いや、母ちゃんが、インターネットで見たって。
伊藤 それ見て、母ちゃんが、じゃあそれをやってみようって言ったの。
子ども じゃ、それって、変なホームページだ。
伊藤 そういうことやなあ。ホームページにもインチキな、詐欺がいっぱいある。
子ども 詐欺?
伊藤 詐欺、詐欺商法。インチキ商法がいっぱいあるやで。
子どもたち うあー。
子どもたち インターネット、こわー(恐い)。
伊藤 インターネット、怖いんやで。その中で、正しいのは伊藤伸二のホームページ。
子ども ハハハハ。伊藤伸二の?
伊藤 伊藤伸二のホームページ、見なかったの? いろんなホームページでは、腹式呼吸とか、いろんな治す方法が書いてあるけども、みんなだめ。やっちやだめ。
子どもたち えー。何でー。
伊藤 必要ないし、はーはー、こんなことやって、これだけ一所懸命がんばってるのに、なかなか治らへん。何でやろう。はー、はー、一所懸命やっても治らへん。
子ども どもる人は、声が小さい人だから。
伊藤 どもるということは、声が小さいことだから、息を吸って、こうやって話すというんか。息を吸っちゃだめー。
子どもたち えー。
伊藤 しゃべる時に、息を吸っちゃだめ。これを、みんな覚えとき。
子ども 息をしないで、しゃべれるの?
伊藤 はい、じゃ、今から息をしないでしゃべるぞ。こうしてしゃべって、息を吸わないで、しゃべって、しゃべって、またしゃべって、また息を吸っていないけどしゃべれる。吐ききったら…息は自然に入ってくる。だから、吸ったらあかん。息を吸おうとすると、胸と肩がつりあがって、力が入り、(はあはあ)僕ねー、(はあはあ)、こういうどもり方になってしまう。
子ども へん。いやだ。
伊藤 いやだろう。だから、息を吸わないで、空気を吸わないで、今ある息のままで、いきなり『こんにちはー…』としゃべる。そして、しゃべり切ったら、息は自然に入ってくる。インターネットにはいろんなことが書いてあるけど、信用したらあかんで。このこと、お母さんに、言っとくな。
自分で工夫してること
子ども 僕、自分の名前の最初の文宇の「か」が言いにくくて、健康観察っていうのがあって。
伊藤 はいはい、健康観察ね。
子ども 名前を言って、それで。
子ども えー、名前を言うの?
伊藤 名前を言うのか。先生が名前を呼んでくれて、はい元気ですと言うんじゃなくて、自分で名前を言うのか。
子ども はい。その時、どうしても最初が言えないので、『か』をとばして、
伊藤 『か』をとばして、うん。
子ども 『・ねこしょうたです』と名前を言うと、自然な流れで『か』が聞こえるような形になる。
伊藤 すごい。
子どもたち えーい、すごーい、すごーい。
伊藤 それで、ええやん。えらいねえ、自分で考えて工夫してたんだね。
子ども 僕も、『おはようございます』の『お』と『ざ』が出ないなら、とばして『はよう、何とか。』とか言ってる。
伊藤 おー、それ、いいやんか。『おはようございます』と一音一音、はっきり言わなきゃいけないことなんてない。挨拶ってさ、朝行って、おはよう言う時に、『おはようございます。』と一音一音、ちゃんと言ってもらわないとだめだと誰も思わんものね。『はようございます。』と言っても相手は「おはようございます」と言っていると思って通じるよな。『お』がなくてもいい。すごいねえ、これも自分で工夫してるんだあ。
子ども でも、治す方法ってあるの?
伊藤 治す方法はあるよ。『吃音ワークブック』、ちょっとここに持ってきて。治す方法を今から教えるからな。
子ども 前、伊藤さん、『どもる君へ いま伝えたいこと』(解放出版)に書いてあったんだけど、どもりを治す学校とか通っていたんですよね。
伊藤 そうよ。僕はどもりを治す学校に通って、一生懸命がんばったけど、全然治らへんかった。
子ども 効果ないんだ。
子ども 俺っちの先生も、どもりだよ。
伊藤 え、学校の先生が。
子ども うちにもいる。
伊藤 えー、ここも、どもりやって、ふたりもおるんか。先生が、どもりやて。それ、ちゃんと分かるの?
子ども 先生がどもりなら、いいなあ。
子ども いいなあ、もう。いいなあ。
子ども 僕の先生は、子どもの頃は、どもりやったけど、今はしゃべれると言っていた。
伊藤 そうかあ。
子ども 僕の先生は今でもどもる。
伊藤 どもるの? で、ちゃんと君らに分かるの? どもってるのが分かるんか。
子ども うん。
子ども どもってる先生っていいな。
伊藤 先生がどもってるの、いいなあ。自分の学校の先生がどもっているって、いいよね。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/27