第21回吃音親子サマーキャンプ報告第2弾  子どもたちの表現活動~竹内敏晴さんから学んだことを受け継いで~

 吃音親子サマーキャンプのプログラムの柱は、話し合いと表現活動ですが、もうひとつ、オープニングに行う出会いの広場のもつ意味も大きいと思っています。参加者は、全国から集まってきます。この年、第21回のときは、北は岩手県、南は鹿児島県から参加者があったようです。初めて参加する人たちの持つ不安も全部包み込んで、出会いの広場が始まります。時間は短いのですが、終わった後、参加者の顔は皆穏やかになります。キャンプは、ここから始まるのです。
 出会いの広場と、表現活動としての【演劇】に焦点を当てた「スタタリング・ナウ」2010.11.28 NO.195 を紹介します。

第21回吃音親子サマーキャンプ報告第2弾
子どもたちの表現活動~竹内敏晴さんから学んだことを受け継いで~

  演劇は、毎年脚本を書き下ろし、演出・指導の合宿レッスンをして、演出家・竹内敏晴さんが支えて下さっていた。竹内さんが、 2009年9月7日、お亡くなりになり、竹内さん抜きの初めての今年のキャンプ。不安な私たちに、控えめにしかし力強く「私でよければ」と演出を申し出てくれたのが、吃音とは全く関係がないのに、10年以上もキャンプにスタッフとして参加している渡辺貴裕さんだ。渡辺さんの事前レッスンの指導は、丁寧で分かりやすく、当日の子どもたちへの指導を意識したもので、私たちは楽しく弾んだ。
 ミヒャエル・エンデ原作、竹内敏晴脚本の「モモと灰色の男たち」が渡辺貴裕構成・演出となった。
 4グループの様子の報告を、統一せず、自由に書いてもらった。

  出会いの広場
                  高瀬景子(千葉市立山王小学校ことばの教室)
 吃音親子サマーキャンプが始まった。約120名の中には、緊張し不安な人、どんな人が参加し、一緒に過ごすのかなとわくわくしている人もいるだろう。「参加者のみなさんの心が和み、親しくなりますように…」と考え、最初の活動として行っているのが「出会いの広場」である。今回は、3つの活動を企画して、1時間半、楽しんだ。

1.「サマキャン21回目だ!ワーイ!」クイズ
 楽に座って参加できる○×クイズ。楽しみながらサマキャンについて知る内容にした。○×と腕で示しながら、他の人の答えを見渡している人。問題や答えを聞いて思ったことを大きな声で話している人。近くの人と目が合ってにっこりとしている人。少しかかわりが増えてきたようであった。
 例えば、「今回の参加者の中で、一番参加者が多い都道府県は、大阪府である。○か?×か?」というクイズ。「もちろん、大阪人が多いでしょ」「いやいや、違うかも」という声が聞こえ、参加者を見渡しながら考えている様子が見られた。
 答えは「○!」当然、「やったあ!」「違ったあ」という反応で賑やかになった。「でも、大阪府から26名、なんと千葉県からは24名の参加があり僅差!来年は、千葉県民が一番多いかもしれないね」という説明に、「おお!」と驚きの声が上がった。岩手県、鹿児島県からの参加もあり、サマキャンへの思いの大きさを感じた。
 「昨年は20回目記念で、二日目の夕食がカツカレーだったが、今年はカツなしカレーである。
○か?×か?」というクイズ。「これは、全くわからないよ!」「昨年はお祝いしたね」「ちょっと豪華だったよね」「今年もカツカレーがいいなあ」
 答えは「○!カツありです。」「ワーイ!」「イエーイ!」「やったあ!」と喜ぶ声と笑い声、拍手が大きかった。21回目のサマキャンが実現したというお祝いの意味が込められたカツカレーだった。

2.「みんなで集まれ!」ゲーム
 少し緊張がほぐれたと思われたころ。活動的で、交流を深める活動をした。いろいろな人がいる、おもしろい、共通点があったなどと知り、笑顔にあふれた時間となった。
 「誕生月で集まれ!」は、よく知られているゲーム。声を出さずに指や口の動き、ジェスチャー、表情などで伝え合った。集まると親近感を覚え、自然と「たくさんいるんだね」「何日生まれ?」などの会話が始まった。同じ誕生日や誕生日続きの人たちが何組もあり、歓声が上がった。
 「部屋で集まれ!」は、昨年に続き2度目である。宿泊する部屋の名前を言いながら集まり、顔合わせ。その後、部屋の名前(「いちょう(植物)」、「はと(鳥)」「とんぼ(虫)」)をイメージしたパフオーマンスを話し合った。「よし!」と一番に立ち上がって動き出したのがお父さん部屋の様子を見て次々に部屋ごとの練習が始まる。意気込み、アイディア、協力、工夫と熱気にあふれていた。
 結果、部屋紹介は、演芸大会のようなパフオーマンスで盛り上がり、拍手と笑い、感嘆で賑わった。特にお父さん、お母さんのユニークなパフオーマンスには脱帽。大人も子どもも一緒に楽しみ、サマキャンの始まりに同室の人との交流を深めることができたと思う。顔見知りの人のなかに、初参加の人も加わり、「今回の参加者の輪」ができるようにと考えた活動であるが、どうだっただろうか。後で「あんなことをみんなでやったね。」と笑い合ってくれていたら、うれしい。

3.「学習・どもりカルタ」お披露目大会
 7月に完成し、8月上旬に初販売されたカルタである。四つ切り画用紙の大きさに拡大した巨大カラー絵札を床一面に広げると、「うわあ!」という声が上がり、子どもたちが近寄ってきた。手描きのかわいい絵が、魅力である。
 まず、「吃音」をテーマにした俳句のような読み札を子どもや大人から募集したこと、読み札作りの子どものエピソード、完成の経緯を説明した。
 どんな句があるのか、カルタ取りをしながら紹介した。低学年の男の子たちは、大きな絵札に飛び込んでいた。「もっとやりたい!」と言い、楽しんでいる気持ちが伝わってきた。
 短時間であったが、どもる人の思いに触れ、遊びながら吃音を学ぶおもしろさが伝わっただろうか。
 キャンプ中の休み時間に、カルタを楽しんでいる子どもたち、俳句の解説をじっくりと読んでいる人、購入している人などの様子が見られた。楽しくお披露目をする機会を作ってよかった。
 参加された方にとって、「出会いの広場」が「よき出会い」のひとときになっていますように。

  そのセリフは誰に向かって言っているかを意識して
                青グループ 鈴木尚美(横須賀市立長浦小学校)
 青グループのメンバーは、自己主張の強い小学生高学年の2人以外は、あまり前に出ようとするタイプではなく、はじめは、声も小さい感じだったので、男女に分かれて「ラ~イオンだ!ラ~イオンだ!」「ゾ~オさんだ!ゾーオさんだ!」と大声出し競争をしたり、劇の中で歌う「夕焼け小焼け」を歌ったりなど、まずは、みんなで声を出して、緊張感をほぐすところから始めた。
 練習のときに心がけたのは、”そのセリフは誰に向かって言っているか”を意識させることだった。相手にことばが伝わるように相手の方を向くことや、相手に届く声を出すことで、次第にセリフがはっきりした。また、セリフを早口で言う子どもには、大切に押さえてほしいことばを伝えたり、セリフの途中に動作を入れたりしてスピードを落とし、聞きやすいセリフになるよう工夫した。
 少し慣れて、周りの動きが見えるようになると、小学生高学年の2人が互いの演技の邪魔をし始めた。それは、2人がそれぞれのユニークな発想で台本にはない演技を加えたからだ。どちらの発想もおもしろいが、互いに相手の思いつきは許せず、それをやめさせようとしたり、ふざけて劇自体を止めてしまったりして、練習にならなくなった。
 そこで、パート練習ということで、2人を分けることにした。場所を変えて練習をすることで、2人も、また、ほかの子どもたちも落ち着いて練習ができた。パート練習である程度かたちが整ったところで、2つの場面を合わせると、子どもたちも互いの場面の進歩を感じることができたようだった。そこで、練習1日目が終わった。
 練習2目目、第1場面の青グループは、いきなり学習室でのリハーサルだった。まずは、通してやってみると、また2人がぶつかるので、2人を呼んで話をした。まず2人の発想の良さをほめ、次にやや悪ノリでくずれてしまっているところを直すように伝え、最後に、「私は、2人のアイデアがすごくおもしろいと思うから、どっちもやってほしいです。お互いに、自分のアイデアを認めてもらう分、友だちのアイデアも認めてあげるといいんじゃないかな」と伝えた。2人ともはっきりした返事はしなかったが、納得できたようで、その後の練習も、本番も、いい顔で自分の役をのびのびと演じていた。ほっ。

  劇を作る過程の大切さ
            ピンクグループ 東野晃之(大阪スタタリングプロジェクト会長)
 劇の練習は、2日目の昼と夜、3日目の朝の3コマ、各2時間、2時間、1時間。ウォーミングアップとして声を出し、体を動かす。子供の配役を決める。台本を読み合わせる。動きを入れた芝居の練習、個別の練習などを考えると、充分な時間ではない。最終日の上演で、「練習の成果を見せたい」、「できたら上手く演じさせたい」と、芝居の結果に目標を置き過ぎると、なおさら余裕がなくなり、上手くいかないようである。
後日の反省会で、子供の配役を決める前に、仮の配役で一通り芝居をした後で、自分が演じてみたい役を子どもたちに選ばせるという意見(渡辺さんの話)があった。スタッフの見本の劇の上演が1日目の夜にあるが、実際にやってみて経験しないと実感が湧かず、芝居や配役への興味や関心を持ちづらいだろう。これまで気が付かなかった。「早く、芝居のかたちを作りたい」との焦る気持ちが、余裕をなくしていたようだ。劇の練習を振り返っても余り印象に残ることが浮かばないのはそのせいかもしれない。
 劇の練習に入る前に、皆で声を出し、からだを動かすようにする。ゲームや遊戯を皆でするのは楽しい。その役割は、普段、子供と接する、小学校の教員の掛田さんにお願いした。レパートリーを持ち、進め方が上手だ。
 配役を決めるのは、毎回苦心する。希望の役が重なることやなかなか役を決めかねる子どもがいるからだ。芝居をやりたくないという気持ちもあるのだろう。子どもの気持ちを察し、上手に接するのはむずかしい。やはりスタッフの教員経験者が積極的に関わって下さるのがありがたい。初参加の教員や芝居の事前練習に参加してないスタッフの中には、口出しするのに抵抗感や遠慮があるのか、あまり積極的に発言などをしない人がいる。大いに口出しをして子どもに関わってもらえれば助かるのにと思う。今後、スタッフ同士のミーティングで役割などの話し合いが必要であるように思う。
 芝居の練習では、セリフの声が小さく、相手に向かっていない子どもがみられる。もう少し、大きな声を出すことや相手に向かって言うことなどをたびたび指摘する。セリフをどう言うかの前に、からだや声のことをやはりした方がいいようだ。以前は、竹内レッスンで教わったからだや声についてのレッスンを積極的に取り入れていたが、最近、あまりやらなくなったことに、久しぶりに参加した方に指摘されて気がついた。小さな子どもでもできるレッスンをアレンジし、準備しておいてもいいようだ。子どものなかには、発達障害があり、吃音症状も重い子どもがいた。声やからだのレッスンをしようかとも考えたが、理解が難しく、意味がないと思えたのでやめた。役をダブルキャストにし、セリフを分けて、ことばに詰まったら最初だけ一緒に言ってもらうようにしたが、長くは続かなかった。セリフを分けずに最初から一緒に言った方がよかったと反省した。
 劇の上演では、役の演じ方やセリフの言い方などに、子どもによって差がある。少しでも上手く演じさせたい気持ちはあるが、芝居を楽しむことや芝居を作り上げる過程を大事にしていきたいと思った。スタッフ同士の協力も必要だ。演じる子どもたちだけでなく、スタッフも一緒に芝居を作り上げる楽しさを共有することが大切だろう。

  遊びを通してお互いの表現やかかわり合いを楽しむ
               黄色グループ 渡辺貴裕(帝塚山大学現代こども学科)

 きいろグループは、最後のパートを担当。モモが時間の国に行って女神や妖精たちと出会うところから、時間が止まったなか人々を助けに行くところまでである。
 セリフのやりとりで話が進んでいく場面が少ないため、かえって練習はやりにくい。大勢で動く場面がいくつかあるので、みんなでそうした場面を使っていろいろと遊んでみた。今回はそうした遊びを中心に報告しておこう。
 女神と妖精が出てくる際の歌「ひらいたひらいた」。全員で輪をつくって「ひらいた」「つぼんだ」を動きながら、2番まで歌ってみる。輪を作ったままその輪をお互いくぐったりまたいだりして絡みあわせておいてまたほどく「人間知恵の輪」という遊びをやってみる。さらに「ひらいたひらいた」を歌いながら「人間知恵の輪」をする。それほどスリリングな遊びでもないはずだが、子どもたちは、口々に「どこ通ったか分からんようになった」など言いながら、楽しんでくれる。
 最後の場面の歌「手のひらを太陽に」。「生きているなあ~」と自分が感じるのがどんな時か尋ね、その場面を動きで表してもらう。寝ているところ、食べているところ…。その動きを続けながらこの歌を歌ってみる。これは失敗。歌いながら動作をやり続けるのは無理があった。
 灰色の男たちに追い立てられながら人々がせわしなく働いている場面。まずみんなで、ジェスチャー当てっこをする。1人が円の真ん中に出て、ある仕事を表す動作をする。それを見てみんなで何の仕事か当てる。たかのり(小5)、筒のようなものを両手でもって斜め上に向けている。「消防士!?」。ある子が当てて、「おおーっ」と歓声が上がる。動きを思いつくのがなかなか難しいので前に出る子は少ないが、みんな前向き。最年長、たいせい(高1)が出る。杖らしいものを持って腰をかがめて歩いている。おじいさんらしい。「おじいさんは仕事ちゃうやん!」とツッコミが入って笑いが起こる。
 仕事をいろいろ出し合った後、全員バラバラに立って、それぞれ自分が決めた仕事の動きをやってもらう。私が灰色の男になる。灰色の男が「もっと早くしろ!」と急かしたらスピードアップ、別の方を向いたときにはさぼる、ということにする。みそらちゃん(小2)、灰色の男(私)が視線を向けたときには、必死で手を動かして窓ふきの動作。こうした各自の仕事の動きや灰色の男とのやりとりは、脚本を演じるときにも、そのまま使えることになる。
 これらの遊びを、配役を決めて脚本を通しで練習する前にいろいろとやってみた。また、配役を決めてからも、時々、こうしたみんなでの遊び的な要素は取りいれている。
 通し稽古の際、灰色の男役になったこうすけ(小3)とげんき(小2)がノリノリ。動きが格好良いと感じるのか、「早くやれ」などと命令できるのがうれしいのか。時間が止まった後、バタッと倒れていくシーンも楽しそう。せっかくなのでこのシーンを全員で灰色の男になってやってみた。私が鐘を鳴らしたら、めいめいの倒れ方で倒れていく(時代劇なら悪役の見せ場だ)。さらに、半分ずつに分かれて順にやってみて、お互いのを見合うことにした。迫真の「最期」の演技に笑いと拍手が起きた。
 全体を通して、とても良い雰囲気で練習が進んだ。子ども同士で助け合ったりアイデアを出し合ったりすることが多かった。あみちゃん(小5)が同じ夏の妖精役のみそらちゃん(小2)を歌い始めや出始めでリードしたり、麦わら帽子をかぶるのを恥ずかしがって嫌がるベッポ役のはるなちゃん(中1)にモモ役のくるみちゃん(中2)が首から提げておくことを提案したり…。遊びを通してお互いの表現やかかわり合いを楽しんでいたことも、こうした雰囲気を生み出すことに役立ったのかもしれない。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/12

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