吃音親子サマーキャンプの仕組み

 昨日に続いて、第21回吃音親子サマーキャンプの特集です。20回という節目を越え、吃音親子サマーキャンプの仕組みについて、先月号は、話し合いのもつ意味を、そして今月号は、演劇のもつ意味をまとめています。
 まず、「スタタリング・ナウ」2010.11.28 NO.195 の巻頭言から紹介します。

  吃音親子サマーキャンプの仕組み
                    日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 21年続いている、2泊3日の吃音親子サマーキャンプのプログラムは実にシンプルだ。
 当初、ある地方自治体の言語聴覚士と実行委員会を作って取り組んでいたが、意見は、このように常に対立した。
◇吃音に悩んでいる子どもに、話し合いや劇など、プレッシャーになることをさせず、仲間と出会い、楽しい経験をさせる「楽しいキャンプ」
◇仲間と出会い、課題に仲間と挑戦し、達成した「喜びを自らつかみ取るキャンプ」
 数年後、日本吃音臨床研究会単独で開催するようになって確立したプログラムは、そのまま現在も変わっていない。遊び、楽しみの要素は、2時間ほどの野外活動があるだけだ。
 初めて参加した人は、遊びの要素のなさと、そのあまりのハードさに驚くが、キャンプが進む中で、そのハードさに慣れ、実はこれが楽しいキャンプなのだと気づいてくれる。おそらく、世界でもこのような吃音キャンプは類を見ないだろう。
 キャンプの3つの柱は次のとおりだ。
 1.吃音に向き合う、話し合いと作文教室
2.劇の稽古と上演
3.親の学習会
90分の話し合いは、初めて参加したことばの教室の担当者や言語聴覚士が、子ども達がここまで集中して話し合いができるのかと驚くほど深い。そして、滋賀のキャンプに参加する子どもが特別な存在ではないのだから私たちにもできると、話し合いやグループ活動をその後の臨床に取り入れるようになる。キャンプで大切にしていることが、全国に広がるのはうれしいことだ。島根県、静岡県、岡山県、群馬県へとキャンプは広がっている。
しかし、演劇活動は、私たちも、竹内敏晴さんとの出会いと、竹内さんの全面的な協力、指導がなければできなかったことで、どこででもできることではないだろう。
「劇の稽古」がどのように展開されているのかを私は詳しくは知らない。その時間帯は、保護者の学習会があるので、立ち会えないからだ。各グループの取り組みは、スタッフ会議で知る程度だ。
今回のグループごとの報告で、各グループが何を大切にして、どう取り組んでいるのかが分かり、興味深かった。竹内敏晴さんのレッスンを何度も受け、吃音だけでなく、ことばや表現について、幾度となく話し合ってきた仲間だから、共通することが多いのは当然だが、その時、その時の参加するメンバーにあわせて、独自の取り組みが変わっていっておもしろい。
キャンプは、子どもたちにとっては、劇と話し合いが両輪で、どちらを欠いても、私たちの吃音親子サマーキャンプにならないことが、今回の報告でもよく分かる。
かつて学校教育の中には、勉強には自信がないが、運動会では活躍するなど、バランスがとれるところがあった。正義のガキ大将も機能していた。しかし今は、自信を失わせないようにとの教育的配慮で、自分が何ができて何ができないかが鮮明にならない。キャンプでは、話し合いでは話せなかった子が、演劇の稽古でイキイキと友だちと関わったり、反対に話し合いや遊びの場ではイキイキしていた子が、演劇では苦戦したりしている。
それぞれが、得意なことと、苦手なことの両方に向き合っている。そして、それぞれの子どもが自分の特徴を活かせる場があり、居場所がある。
話し合いで気になった子どものことは、スタッフ会議で共通のものとなり、演劇の稽古にバトンタッチされる。その連携がうまくいき、変わっていく子どもを私は何人も見ている。話し合いも、演劇も、自分と向き合わざるを得ない、ある意味厳しいプログラムだ。どちらか一方では、子どもの力を見誤ってしまう。子どもの力を信じ、それぞれの子どもに関わり、吃音親子サマーキャンプの、全体としての装置としての「場」を大切に考えるスタッフと、今後もキャンプを続けたい。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/11

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