吃音親子サマーキャンプ~話し合いのもつ意味~

 今年、吃音親子サマーキャンプは、第34回目となります。大阪近辺で、少人数で始まったこのキャンプが、まさかここまで続くとは考えていませんでした。僕は、21歳のとき、どもる仲間に出会い、自分のことを話し、ほかのどもる人の話を聞き、その中から、どもりは治らないことを認め、どもりながら生きていこうと、どもる覚悟を決めました。もっと早くどもっているそのままでいいと知っていたら、あんなに辛くみじめな学童期・思春期を送らずに済んだのではという思いから、どもる子どもたちのためのキャンプを始めたのです。当初から、大切にしてきたのが、同じ年代の子どもたち同士の話し合いです。
 今日は、吃音親子サマーキャンプの重要なプログラムのひとつ、話し合いに絞って、その持つ意味について特集した「スタタリング・ナウ」2010.10.25 NO.194 を紹介します。全体の説明の後、小学生、中学生、高校生の話し合いのファシリテーターからの報告です。

報告:第21回吃音親子サマーキャンプ~話し合いの持つ意味~

 2010年8月27・28・29日、滋賀県立荒神山少年自然の家で、第21回吃音親子サマーキャンプが行われた。昨年、20回という節目のキャンプを終え、新しい一歩を踏み出した感がある今年のキャンプ。キャンプが大切にしている、〈話し合い、劇の練習と上演、親の学習会〉という3つの大きな柱の内の一つ、話し合いにスポットを当て、報告する。
 話し合いのグループは、子どもの場合、大体同年齢で分けている。今年は、①小学1・2年、②3・4年、③5・6年、④中学1・2年、⑤中学3年と高校生、そして、⑥きょうだいグループに分かれた。親は、参加回数や男女別を考慮して、10人くらいで4グループに分けている。それぞれ、その中に、ファシリテーターとして、ことばの教室の教師や成人のどもる人が入る。
 キャンプ1日目の夜に90分、2日目の午前中に120分、話し合いの時間が設けられている。2回目の話し合いの前に、一人で自分の吃音と向き合う作文の時間が90分ある。
 今回、話し合いのファシリテーターとして入った人に、話し合いの持つ意味と、話し合いの場での子どもたちの様子、どんな話題が出たか、などについて、報告していただいた。それぞれのスタイルで自由に書いていただき、あえて、統一はしていない。自由な雰囲気の中で、子どもたちは、自分のどもりについて語り、ほかの子どもの体験に耳を傾ける。想像力豊かにお読みいただけると幸いである。

〈小学1・2年生の話し合いの報告〉
      話したいことがたくさんある
                  渡邉美穂(千葉市立あやめ台小学校・ことばの教室)

 話したいことがたくさんある1・2年生の話し合いは、はじめから盛り上がりました。一人一人が、吃音についての話をしたくてしかたがないという感じでした。学校で友だちにどもることをバカにされたり、まねをされたりして嫌だったと言う子がいると、自分も同じようなことがあったと「聞いて、聞いて!」と夢中になって手を挙げていました。この子たちは、サマキャンの話し合いの時間の意味と大切さをわかっていて、この時間を楽しみにしていたんだということが伝わってきました。お互いの話を聞くことも大事であることがわかると、順番に話したり、友だちの話を聞いたりしていました。
 2回目の話し合いは、吃音についての作文を書いた後でした。ものすごく話したかった子たちが少し穏やかになっていました。特にA君は「作文に話したいことをたくさん、思いっきり書いてきた。すっきりした」と言っていました。「今まで、お母さんにどもって困ったことを話さなかったんだけど、さっき書いた作文をお母さんに見せたんだ。だからもう、話すことはないよ」とA君は、ものすごく、いい表情でした。作文を読んだA君のお母さんも「この作文は、よく書けているね」と誉めてくださったそうです。そして「話したいことは、いつでも話してね」とお母さんが言ってくれてA君は、うれしそうでした。
 このサマキャンの3日間の日程は、何年も変わることなく劇と話し合いと作文を柱に行われています。2日目の朝に作文を書き、その後話し合いを行うこの流れがいいんだと実感しました。どの子にも1日目に話し合いをしたことや今までの自分のことを整理する時間として、作文を書く時間は、大切にされてきました。小学校1・2年生の子どもたちも、一生懸命に自分と向き合っていました。2回目の話し合いは、どの子も自分の考えをしっかりもって参加していたと思います。こんなに小さい1・2年生の時からがんばっているんだと思い、応援したくなりました。

〈小学3・4年生の話し合いの報告〉
   どもりのことをもっと知りたい、そして友だちにどもりのことを知ってもらいたい
              溝上茂樹(鹿児島県姶良市立姶良小学校ことばの教室)

 吃音親子サマーキャンプの大きな柱の一つに話し合いがあります。子どもたちの話し合いに参加する度ごとに、同じ年齢の仲間のことばや行動は大人から言われることよりも、よりリアルに子どもたちの心の中に滲みていくのを実感します。今回、私は高瀬さんと二人で3・4年生の話し合いを担当しました。全員男の子で3年生5人、4年生3人、そのうち4人が初参加の子どもでした。
 話し合いの中では,「なんでそんな話し方をするの?」とよく聞かれるということが話題の中心になりました。「質問する人の中にはどもりのことを理解したいと真剣に聞いてくれる人とふざけて聞いてくる人がいる」「真剣に聞いてくれる人には説明をして、どもりのことを分かってほしい」などの意見の発表がありました。
 そこで、ふざけて聞いてくる人への対応策、どもりのことを友だちにこんなふうに説明している、自分が説明できないときにどのようにしているかなどについて、それぞれが自分の体験をもとに意見を出し合いました。また子どもたちの中に「吃音」ということばは知っているのに、「どもり」ということばを知らない子もいましたので、どもりとは何か、どもりのタイプ、随伴症状などについて一緒に学習しながら、自分のどもりの様子についてそれぞれが発表しました。
 しばらくするとすると4年生の子が「どもりの本をお父さんがもっているよ」「その本でもっとどもりのことを調べよう」と言い、彼のお父さんの荷物の中から本を持ってきました。その本は親の学習会でテキストとして使用している『吃音ワークブック~どもる子どもの生きぬくカが育つ~』でした。「お父さんたちが学習会で使っている本だね」と説明しました。彼がその本をもってくると他の子どもたちもすぐに彼の周りに集まりました。そしてその本のページをめくり、どもりのことを調べ始めました。子どもたちにとってはその本の内容は少し難しいのですが、少しでもどもりのことを知ろうとページをめくり続けました。しばらくして、子ども向けの本「どもる君へ~いま伝えたいこと~」を借りてきて調べることにしました。あまり時間がなかったので多くのことを調べることはできませんでしたが、子どもたちの夢中になって本を読む姿から、どもりのことをもっと知りたい、そして友だちにどもりのことを知ってもらいたいという思いが滲み出ていることを感じました。
 1日目の話し合いでは仲間との久しぶりの再会のためか数名の子どもが気持ちを高揚させ、友だちの発表を聞かず、冗談を言ったり、言葉尻を捉えてからかったり、関係のないことばを連呼したりするなどの様子がみられました。しかし2日目の話し合いでは1日目よりも落ち着いて話し合ったり、どもりのことを積極的に調べたりすることができました。今年の話し合いも子どもたちの持つ力を感じることができた話し合いでした。

〈小学5・6年生の話し合いの報告〉
    みんなの考え方の違いが明確に
                   掛田みちる(滋賀県草津市立矢倉小学校)

 10人のうち、4人がサマーキャンプ初参加だった。2回以上参加している子どもたちが場の雰囲気を和やかにしてくれたことで、初参加の子どもたちの緊張も徐々にほぐれていったようだった。話し合いで一番に話しておきたいことを聞くと、「クラスのみんなにどもりのことを話したことで、からかわれたり笑われたりすることがなくなった。勇気を出して話して良かった」という6年生の子どもがいた。「その勇気は昨年のサマーキャンプでどもる仲間に出会えたことも影響しているのではないか」、「一番に報告しようという気持ちでサマーキャンプに来たことが素敵だね」と、スタッフとしての思いを伝えた。
 今一番困っていることや、話す時に何か工夫しているか、原因は何か、などどもりの話題を中心に話し合いは続いた。話す時の工夫について、「息をたくさん吸って、とめて一気にしゃべる」という方法と、反対意見として「息をはいて、はく息にことばをのせてしゃべる」という方法の二つが出てきた。どちらも自分のどもりと付き合うなかで見つけてきた工夫である。試行錯誤して作りだした工夫が、それぞれまったく反対のものであることのおもしろさを分かち合った。
 二日目は、「どもりを周りにどのように分かってもらうか」という話題を中心に二つのグループに分かれて話し合った。「なんでそういうしゃべり方なのか?」と聞いてくる周りのことを「やっかいな奴」という表現をした子どもたちがいた。「説明しないの?」と聞くと「無視する」とのこと。ただ、積極的に「小さい時からの癖だから」「原因は分からへんねん」と説明しようとする子どもの意見を黙って聞いていた。また「しゃべらないでずっと黙っていたら、いつの間にかどもらなくなるんじゃないか」と言った子どもがいた。それに対して、「しゃべらなかったらよけいに話すのがこわくなる。いつもどもってしゃべっていたらみんながどもりを聞き慣れてくれて、授業の発表でどもっても気楽になるんじゃないか」と意見を言った子どもがいた。すると、先ほどの「黙っていれば、いつの間にかどもらなくなる・・」と発言した子が、「あー!」と新鮮な驚きの声をあげるといった一場面もあった。それぞれの捉え方の違いが明確に出てくる話し合いだったのではないかと思う。
 最後に、「みんなに聞いてほしい」と初参加の子どもが、自分の目の病気のことについて語った。このメンバーだからこそ自分の大切なことを話したいという気持ちが伝わってきて、全員で静かに話を聞いて2日間の話し合いが終了した。

〈中学1・2年生の話し合いの報告〉
   お互いの発言に反応しながら、話し合いは続いた
                 渡辺貴裕(帝塚山大学現代生活学部こども学科)

 中1と中2が5名ずつの計10名。女の子は3名。初参加は1人だけ。参加回数3回以上のベテランが多い。
 中学に入って、あるいは中2に上がって、今考えたり悩んだりしていることを出し合ってもらう。出てくる悩みは、どもりに関することとは限らない。ある女の子、「中学に入って勉強が難しくなって、そっちのほうが大変」。同意の声が上がって、夏休みの宿題の多さ、終わってなさの話でひとしきり盛りあがる。
 もちろん、どもりに関する話も出てくる。サッカー部に入っているある男の子、「試合中、(パスを出したりするときに)名前が呼べなくて、後から『声出せ』って言われて…」。他にもサッカー部の男の子がいたので、「どうしてるん?」と話が始まる。
 さすが中学生と言うべきか、内省的な発言も出される。「周りの反応がどうというより、言いたいことが言えないことのほうがつらい」と、ある男の子。また、別の男の子、授業中もおしゃべりのし過ぎで先生に叱られているらしいお調子者の彼だが、そんな彼でも、「電話が苦手」と言う。けれども今は、「いい方に考えよう、どもったら自分と分かってもらえるし、と思っている」と話す。
 こちらから投げ込んだ問いで、興味深いやりとりになったものがあった。問いはこういうもの。「世の中はたいてい多数派に都合がよいように作られている。今はどもる人間の方が少数派だけれど、もしどもる人間の方が多数派になったら、例えば世の中の97%の人がどもるのなら、世の中はどう変わるだろう」。例として、「授業でも、制限時間内に答える、といった形はなくなるかも」といったものを出した。
 子どもたちからいろいろアイデアが出た。「国語の教科書が変わる。『わ、わ、わたしは』みたいになる」、「このキャンプが無くなる」、「どもらない人のためのキャンプができる」…。さらに尋ねてみた。「どもらない人へのいじめは起きると思う?」。ある男の子、「それはない」。別の男の子、「人間は自分と違うものを差別するものだから、きっと起こる」。
 中学生という年頃、しかも10名という人数での話し合いはなかなか難しい。男女混合なのでなおさらだ。ある内容をめぐって深く突っこんだ話し合いができたというわけではないが、それでも、お互いの発言に反応しながら、よく話し合いを続けられた。初参加だった女の子も、みんなの前では自分から発言することはなかったが、他の子の話はよく聞いていた。時間が経つにつれ、彼女の表情が緩んでいき、笑顔を見せるようになったのが印象的だった。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/09

Follow me!