「学習・どもりカルタ」制作にかかわって 2
もうひとり、僕たちの仲間で、「学習・どもりカルタ」制作にかかわった人の文章を紹介します。学生時代に戻ったかのように合宿を何度も繰り返しました。鹿児島、兵庫、大阪、愛知、栃木、千葉、東京、神奈川などから毎月のように集まってきました。「吃音」に魅了され、考え、取り組んでいることが、形としてまとまることの喜びを、みんなが感じていたからできたことです。「どもる君へ いま伝えたいこと」に始まり、「親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブック」、そしてこの「学習・どもりカルタ」と、みんなの思いが凝縮された書籍・教材が誕生しました。「スタタリング・ナウ」2010.9.26 NO.193 から紹介します。
44枚に込められた吃音への思い~学習・どもりカルタが作られるまで~
宇都宮市立雀宮中央小学校 高木浩明
どもりカルタのはじまり
2007年1月、どもる人のセルフヘルプグループ、NPO法人・大阪スタタリングプロジェクトの大阪吃音教室で「どもりカルタ」は生まれた。
正月気分が残る中、グループに分かれて、どもりにまつわるエピソードを入れ込んだ読み札をつくり、それに合う絵札を描いた。できあがった絵札をフロアーに並べ、読み札を読み上げる。グループの代表が一人ずつ出て、子ども時代に戻って大騒ぎをして絵札を取り合う。
どの札にも作った人の人生が詰まっていた。短いことばの中に、お互いが共感する物語がある。遊びの枠を超えた、語り合う、伝え合う世界が、そこにあった。
ことばの教室の子ども
カルタに描かれた子ども時代のエピソードを、今まさに体験している子どもたちがいる。
「自分と同じ思い」がそこにあることを発見した子どもたちは、さらにどもる大人たちが、どんな体験をし、そのことをどう感じているかを知ろうとする。すると未知の世界だけれど、ほっとできる、安心できる姿がそこにあった。
そんな子どもたちが、次にチャレンジし始めたのが、自分たちのどもりカルタを作ることだった。子どもたちが、日常生活の中で感じている素な思いが、ストレートなことばで語られ、それをお互いに読むことで、「自分だけではない。仲間がいる」と感じられる、大きな支えになっていった。
『どもる君へいま伝えたいこと』(解放出版)の中でどもりカルタが紹介されると、子どもたちのカルタの実践があちこちのことばの教室で行われるようになった。
大阪吃音教室のカルタ作りも三年目となり、作品が増えてきた。
それらの作品の数だけどもる人の人生が、思いが、表現があり、それらを読んでほっとしたり、元気になる自分がいる。
そう考えると、このカルタをより多くの人に読んでほしい。どもる子どもや保護者、あるいはどもる大人に知ってほしいという思いが強くなり、『吃音を生きぬく力が育つ吃音ワークブック』(解放出版社)の制作と同時にどもりカルタの制作プロジェクトが始まった。
カルタ制作
カルタ制作は、読み札を集め、整理することから始まった。大阪吃音教室の作品に加えて、プロジェクトメンバーを通して、ことばの教室に通う子どもたちの作品が数多く集まってきた。
すると、共感できるものだけでなく、読み手に考えさせるメッセージ性を含んでいたり、願いが託されていたりと、作品の幅が広がっていった。作品を選ぶ中で、カルタが、吃音やどもる人について知る教材になると実感した。
そこで「声やことば」など、さらにテーマに沿ったカルタを少し追加し、四十四編の「学習・どもりカルタ」が出来上がった。
読み札に込められた思い
カルタの読み札が決まり、絵札や解説を作成する段階は、一つひとつのカルタの背景にある作者の思いを探り、それを丁寧に読み取り、文章化することだった。すべての作品には、それを書いた人の生き方や気持ち、考えや願いがあり、単なることばとしての読み札ではないことが伝わってきた。
校正の段階で読み札を一通り読んだ子どもが「今の僕にとってはこれが一番」と、その時の自分の状況や思いと照らし合わせながら、気になるカルタを選んでいた。
一枚一枚のカルタが、それを作った一人一人の生き方につながっているから、「今の僕にとって」という意識が出てくる。それが、たくさんの人に読んでほしいと感じさせる、このカルタの魅力だと思う。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/06