私とサイコドラマ

 「スタタリング・ナウ」2010.7.25 NO.191 の巻頭言を紹介します。
 僕とサイコドラマのつながりの歴史が書かれていました。自分が書いた文章なのですが、すっかり忘れていました。どもる人のセルフヘルプグループ言友会を作ってすぐに、何かの記事で知った「心理劇」の第一人者である、台利夫(うてな としお)さんの自宅を訪ねていました。小学校2年生のとき、学芸会でせりふのある役をさせてもらえなかったことに端を発する、僕と劇のつながりの歴史の1ページのようです。その後、深山富雄さん、増野肇さんとつながっていきました。おもしろいつながりの歴史を見ることができました。
 増野肇さんをゲストに迎え、吃音ショートコースを開く直前に書いたものです。

  私とサイコドラマ
                   日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 1968年、どもる人のセルフヘルプグループグループを作って3年目頃、私は毎週の例会に行き詰まっていた。民間吃音矯正所で教えられた呼吸・発声練習や、人前での3分間スピーチ、詩吟・講談など、「吃音を治す・改善」のための例会に限界を感じながら、何をすればいいか分からなかった。その時、何かの記事で「心理劇」を知った。
 学芸会でセリフのある役を外されたことが、吃音に劣等感をもち、深く悩むきっかけとなっただけに、「劇」には反応してしまう。それも「心理劇」だ。すぐに調べて、当時「心理劇」をする数少ない専門家、台利夫さんに手紙を書いた。そして、ご自宅に伺い、どもる私たちが心理劇に関心をもったいきさつと、活動の中で取り組みたいと相談した。その時の話は覚えていないが「ソシオメトリー」ということばと、ご自宅の門構えが記憶として残っている。それから、さまざまなことに興味・関心が広がり、すべきことが多くなって、「心理劇」については、実際に取り組むことはなかった。
 1988年、私は再び「心理劇」に出会えた。全国のリーダー研修会で、心理劇(サイコドラマ)を取り上げたのだ。講師は、愛知学院大学の深山富雄教授。教授の指導のもと、具体的な職場での人間関係が舞台の上で構成されていく。
 「職場でうまくいかなくってね、一人浮いてしまっているようなんですよ」と、人間関係に悩むMさん。うまくいっていないという人間関係の説明を詳しく聞いてももうひとつピンとこなかった。それが、この席にはBさん、この席にはCさん、係長、部長の席が実際の職場のように配置され、それぞれ役割が与えられ、日常の職場での交流パターンが再現される。繰り返し繰り返しとってしまっている行動のパターンをMさんは具体的なセリフで肉づけていく。臨場感あふれる舞台の上で、ドラマが展開していく。何人かがこのように対応したらどうかと、実際にMさんになって演じる。そして、話し合い。そのドラマの中でMさんがどのように感じ、みんなとの話し合いの中で何を見出したか、少なくともこれまでのパターンとは違う行動は、舞台という安全な場では演じることができた。それを実際の生活の場でどう活かすかは、Mさんのその後の自主性に委ねられる。しかし、こうしたら式のアドバイスとは違う具体的な問題把握と展望を自分自身の手で握めたのではないか。
 それがとても楽しくて、その後数年間、私は、サイコドラマのワークショップに年に数回以上参加した。ためになるからではなく、楽しいから参加し続けた。趣味のようなものになった。そして、どもる人のセルフヘルプグループの例会である大阪吃音教室では、サイコドラマがひとつのプログラムとなった。
 しかし、一回の例会でひとつの問題しか取り上げられないこともあり、いつしか、プログラムの中から消えてしまった。アサーション、論理療法、交流分析などがずっとプログラムの柱になっているのに、サイコドラマが消えたことを残念に思い続けていた。サイコドラマは、これらと組み合わせることができるのだから、もう一度、三度目の正直でサイコドラマに取り組みたいと考えた。
 幸い、サイコドラマの第一人者で、一度、私たちの吃音ショートコースに来ていただきたいと考えていた一人、増野肇教授の記事をある雑誌で読んで、チャンスは今だ、とお願いすることにした。
 その後、神経症のセルフヘルプグループである「生活の発見会」の40周年の記念講演で私が講演したときの、記念パーティーでお会いすることができた。先日は、北海道浦河の精神疾患のある人のコミュニティであるべてるの家の「べてるまつり」でも、懇親会でお会いしお話することができた。サイコドラマだけでなく、森田療法やセルフヘルプグループを研究し、精神科医として「べてるの家」に共感し、関わっておられることを知り、さらに親しみと、近いものを感じた。
 関心をもち続けていれば、40年の歳月を超えて再び出会えるものだ。9月の吃音ショートコースで、仲間とサイコドラマを楽しく学びたい。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/03/28

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