谷川俊太郎さん、ありがとうございました

 日本吃音臨床研究会は、月刊のニュースレター「スタタリング・ナウ」を発行しています。「スタタリング・ナウ」は、今月号で、NO.366となりました。今、ブログやTwitter、Facebookで紹介しているのは、昔の「スタタリング・ナウ」です。
 少し前のブログ、Twitter、Facebookで、竹内敏晴さんが亡くなられたときに竹内さんの特集をした「スタタリング・ナウ」を紹介しました。そのときに、谷川さんから、竹内さんに送られたメッセージを紹介しました。
 「スタタリング・ナウ」の最新号を、こんな形で紹介することはこれまでにないことなのですが、竹内さんの次に谷川さんを特集した「スタタリング・ナウ」を紹介することはタイミングとしてとてもいいのではないかと思い、今日と明日、紹介することにしました。
 「スタタリング・ナウ」2025.1.21 NO.365 より、巻頭言を紹介します。

谷川俊太郎さん、ありがとうございました

    日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 谷川さん、夢のような三日間のワークショップをありがとうございました。こんなにこき使われるのは初めてだと笑いながら、私たちのプログラムにつきあってくださいました。100人を超える人たちと、谷川さんを囲んで歌った「鉄腕アトム」の軽快な歌声で一気に場が盛り上がりました。
〈竹内敏晴・からだとことばのレッスン〉
 「からだほぐし」では、無遠慮にも谷川さんにまたがったり、マッサージや、おんぶをしてもらって喜んでる女性がいましたね。みんなとても楽しそうでした。「ららららららー」と喉から大きな声を出した後、「かっぱ」「いるか」「スキャットまで」の詩のレッスンへと続きました。
 云いたいことを云うんだ
 どなりたいことをどなるんだ
 ペットもサックスも俺の友だち
 俺の言葉が俺の楽器
 「スキャットまで」の詩のレッスンのとき、「これをどもる人たちのレッスンに使うのはあまりにもできすぎですよ」とことばをはさみながら、リクエストに応じて詩を読んでおられました。
〈谷川俊太郎 詩と人生を語る〉
 中学校と高校で国語を教えている若い二人の教員が、こんな質問をしてもいいのかと思えるほどの質問をしても、すべてうれしそうに答えておられました。教員が、谷川さんの詩が本当に好きで、実際に授業でおもしろく使っていることが、質問のはしばしから感じとれたからでしょう。他の場所では絶対に聞けない話ばかりでした。
〈対談・表現としてのことば〉
 私が司会をしましたが、とても話が弾んで、竹内さんが、こんなに話したのは初めてだと、おっしゃっていました。対談相手が相性のいい谷川さんだったので、からだの中からいろんなことが出てきたのでしょう。休憩なしの3時間があっという間に終わりました。まだ、つづきを聞いていたいという思いをみんながもったようでした。私も弾んで、つい女性にもてたという自慢話をしていました。すかさず、谷川さんから「それは吃音の誤解ですよ」とツッコミを入れられましたが。
〈谷川俊太郎・詩のライブ〉
 なんといっても詩のライブがハイライトでした。その前座として「生きているということ」で始まる「生きる」をもじって、前日に即興で大阪吃音教室の仲間と作った「どもる」の「どもるということ いまどもるということ つまるということ 隠すということ 逃げるということ 不自由ということ…」の詩には、「これはもうパロディーなんてもんじゃなくて、立派な替え歌ですよ。替え歌というのはものすごくエネルギーがあるもので、これは歴史に残るのでは」と、ほめていただきました。「前座は多い方がいい」との谷川さんのことばに、ことばの教室の教員が谷川さんの詩に曲をつけて歌った後、詩のライブが始まりました。
 参加者は読んで欲しい詩が載っている詩集を用意良くもってきていましたね。終わりの頃の「母を売りに」へのリクエストには、「この方は結構通ですね。渋いリクエストです」と、前置きし、お母さんが認知症になったとき、介護を物理的な問題だけではなく、自分の精神的な問題として考えた時生まれた詩だと解説してくださいました。
 この2年後、谷川さんは、全国難聴言語障害教育研究協議会全国大会で特別講演の依頼を受け、講演はしないが、対談ならと言われました。大会事務局が、いろいろ対談相手を探し回って提案しても、首を振らず、困り果てた事務局が、「では、どんな人がいいですか」と尋ねたところ、「例えば、伊藤伸二のような人」と提案があり、「のような人」が見当つかずに、私に話が回ってきました。
 そして、「内なることば、外なることば」の対談が実現しました。喜んで引き受けたものの、最初は、谷川さんの詩集や散文集を買って、おろかにも準備をしようとしました。でもすぐに、「のような人」が、素手で谷川さんに向き合えばいいのだと考えたら、すっと肩の力が抜けました。
 11月19日の朝日新聞の夕刊、20日の朝刊の一面は、谷川さんが亡くなった記事であふれていました。とても寂しいです。ありがとうございました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/03/01

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