第20回吃音親子サマーキャンプ ~子どもたち自身が喜びをつかみとるキャンプ~ 2

 昨日の続きです。「スタタリング・ナウ」2009.11.29 NO.183 から、第20回吃音親子サマーキャンプの報告をしています。20回というのは、僕たちにとっても大きな節目だったらしく、集合写真を撮ったり、記念になるものをと考えて缶バッジを作ったりしました。子どもたちに伝えたいメッセージを刻んだ缶バッジです。このとき、僕は65歳。命の続く限り続けますと書いていますが、まさか、今年の34回まで続くとは思ってもいませんでした。たくさんの人の支えでここまで続けてこられたこと、感謝です。

  第20回吃音親子サマーキャンプ
    ~子どもたち自身が喜びをつかみとるキャンプ~ 2
                            報告 溝口稚佳子

20回記念の缶バッジ

 20回目を迎えた吃音親子サマーキャンプ。何か記念になるものをと考えて、缶バッジを作った。色とりどりの缶バッジ。そこに刻まれているのが、私たちが大切にしてきた、このことばである。
   あなたは一人ではない
   あなたはあなたのままでいい
   あなたには力がある
 これは、吃音親子サマーキャンプの合い言葉。私たちは、このメッセージを子どもたちに伝えたくて、サマキャンをしているといっていい。サマキャンのすべてに流れる大切なメッセージである。

〈あなたは一人ではない〉
 キャンプに参加するまで、どもるのは自分だけだと思っていた子どもは少なくない。学校の中でどもる子はいない。いつもどもるのは自分一人だと思っていた。誰にも自分の悩み・苦しみは分かってもらえないと思っていた。ところが、キャンプに来ると、こんなにたくさんのどもる子どもがいることにびっくりする。子どもだけでなく、どもる大人の人もいる。広い集会室に集まった参加者を見て、まずは、こんなに大勢の仲間がいるのかとびっくりし、そして、安心する。

〈あなたはあなたのままでいい〉
 サマキャンの柱の一つ、どもりについての話し合い。年齢別にグループを組む。大体6~10人くらいの子どもたちである。そこに、ファシリテーターとして、どもる大人とことばの教室の担当者などの臨床家が入る。複数回参加している子どもたちは、どもることでからかわれたり、辛かったことを話していく。その経験を聞きながら、自分のことも話し始める。よく似た話には大いに共感できる。どもってからかわれたとき、どうするか。「なんでそんな話し方なの?」と聞かれたらどう答えたらいいか。みんなで対策を考えることもある。
 どもるから絶対できないと決めつけていたことをどもりながらしていることを聞かされると、すごいなあと思い、もしかしたら自分にもできるかもしれないと思えてくる。やってみようかなという気になってくる。自分を否定することが多かったけれど、みんなから、「これまでよくがんばってきたなあ」と認めてもらい、どもっていても大丈夫という安心感がわいてくる。私たちは、子どもの吃音を治そうとは思わない。そのままの、あなたのままでいい。キャンプには、子どもをそのまま肯定する場の雰囲気とプログラムがある。そしてどもりながら自分らしく豊かに生きるどもる成人とキャンプの卒業生が、メンターとして生きる姿を見せている。

〈あなたには力がある〉
 話し合いのほかにもう一つ、キャンプの大きな柱は、お芝居の取り組みだ。言い換えのできない、せりふ通りに言わなければならないお芝居。ときに、大きなプレッシャーとなる。でも、同じようにどもる子が、どもりながらせりふを言っているのを見ると、後には引けなくなる。仲間の支えで、芝居をやりきるという体験は大きい。自分には力があると気づく。
 そして、何よりも、どもって嫌なこと、苦しいことがありながら、今まで生きてきた力がある。

 まさにサマーキャンプは、3つのことを実感できる場なのだ。
 缶バッジは、600個作った。1年に1回のキャンプでは足りない、もっと会いたいと言った子がこれまでに何人もいた。そんなとき、この缶バッジがお守り代わりになってくれるかもしれない。不安なとき、どもって嫌な思いをしたときに、見てほしい。きっとサマキャンに参加したひとりひとりが応援していてくれる。3つのことばを繰り返しながら。

スタッフを代表して、ひとことずつ

東野晃之(大阪スタタリングプロジェクト会長)
 長いようだけど、あっという間だったと言う気がする。20年前というと僕は32歳だった。若かったなあと思う。また、今、参加している子どもたちが生まれる前からやっているんだなとも思った。このキャンプは、吃音親子サマーキャンプなので、子どもと親のためのキャンプだけど、僕が参加を続けるのは、スタッフのためのキャンプでもあるのかなと思っている。スタッフの感想で、サポートをするために参加したけれど、自分にとって、安らいだとか元気をもらったとかいう人が多い。僕にとってもそうだ。
 特に、僕には、どもる自分というのがずっとあるので、キャンプに参加することで、もう一度どもる自分を見つめ直すというか、自分と向き合う時間になっているのだと思っている。毎回、参加して、他のスタッフの人が言ったように、元気をもらって、また職場に帰っている。これからも参加できる限り、参加しますのでよろしくお願いします。

高瀬景子(千葉市立山王小学校ことばの教室)
 20回目のキャンプに参加できることを幸せだと思っています。参加したくとも今回どうしても参加できなかった人も知っていますし、以前、参加して、このキャンプが自分の宝物になっている人も知っています。
 私は、この荒神山でキャンプをするようになった最初の年に初めて参加しました。そのときは、ことばの教室の担当になって数年で、子どもたちとどうかかわったらいいか分からなくて、正直なところ、どもる子どもについて、まだ構えがあったと思います。その構えをどうしたらとれるかなと思って参加したけれど、笑いがいっぱい、感動がいっぱいで、いろんなものを教えてもらって、すごくうれしかった。何かしなきゃいけない、してあげなきゃいけないという気負いを落とせて、帰ることができた。今回で11回参加しました。
 20回の内、半分を超えて参加できていることも幸せで、宝物です。このキャンプには自分のために来ています。それが自分の中でどんどん大きなものになっています。ここでしか得られない、大きいものがあるキャンプだなと思っているので、来年も来ます。

渡邉美穂(千葉市立あやめ台小学校ことばの教室)
 楽しさだけじゃなくて、喜びがあるキャンプだという話がありました。いろんな話し合いやいろんなことをして自分なりにチャレンジして、自分なりにいろんな達成感を味わって、それらのものが喜びに変わっていくんだなと思っています。今年、出会いの広場を担当しました。キャンプが近づいてくると、みんなの気持ちをほぐす役なのに、こんなに緊張している私が担当できるのかと思っていました。でも、初日は全然緊張しませんでした。この場が、初めからリラックスしていて、初めから仲良くて、仲間なんだという安心感があったからかなあと思います。今も緊張しているけど、気持ち良く話せています。10回参加しているので、延べ1000人くらいの人に出会っていることになるのかなあ。その仲間に感謝し、その中にいる自分に喜びを感じています。

掛田力哉(高槻市立五領小学校支援学級)
 どもりのおかげで学校の先生になれて、どもりのおかげでこのキャンプで出会った人と結婚できて、どもりのおかげで子どもが生まれて、どもりのおかげでテレビにも出ました。
 私は弱い人間なんですけど、どもりが、ちょっとだけ私を強くしてくれるなと思っています。

掛田みちる(旧姓:横田)
 ちょっと姿を見せない間に、2人の子どもができました。卒業生のお母さんが話しているのを見て、私もその頃参加していたなあ、もう10年になるんだなあと思いました。みんなこの間、いろんな経験をして、いろんな思いを持ってきたんだろうなと思いました。私のように少し離れていても、すうっとその気持ちに寄れるところが、キャンプのいいところだと思いました。日常生活では、あまりどもりの話はしなくなっても、ここで出会ったことで、安心感のある生活ができていると思います。

渡辺貴裕(岐阜経済大学教育学部准教授)
 今回で、僕は10回目になります。竹内敏晴さんのレッスンに行っていて、当時はまだ学生でした。どもりでもないし、どもりのことを勉強しているわけでもないし、伊藤さんから「どもりのキャンプあるから、行ってみる」と声をかけられて、詳しい説明はなく、半ばだまされるようにして来てみて、そこでどんなキャンプかを知った。
 それから10年間、来続けています。昨日の晩も、なんで続けて来るのか考えてたんですけど、よく分からない。今、私は大学で先生をやっていて、どもりは専門ではないけれど、教育分野をしている。でも、たぶん、自分が全然違う仕事に就いていたとしても、このキャンプには続けて来ただろうと思います。ここで出会った子どものことと、親御さんとのやりとりのエピソードは、いっぱい出てきます。今回のキャンプだけでなく、これまでのキャンプで出会った子どものことでも、エピソードはいっぱい浮かんできます。
 初めて来たとき、涼君に出会っていて、翌年、お母さんから「渡辺さんのこと、よく言ってましたよ。今年も会うのを楽しみにしていましたよ」と言われて、僕としてはえっ、とあまり覚えていなかったのだけど、そうやって思ってくれている、こうした濃密な経験ができる、だから、僕は何の関係もないけれど、来ているのだろうなと思います。これからもよろしくお願いします。

伊藤伸二(日本吃音臨床研究会会長)
 スタッフの人、全員立って下さい。これだけの数の人が全国から来てくれるんです。南は鹿児島から、北は栃木から、自分自身がどもる人、ことばの教室の教師、言語聴覚士の専門家、また、吃音親子サマーキャンプの卒業生、またおもしろいことに、何のゆかりもない人が来ているという、とっても不思議な空間だと思います。僕は、このキャンプの場が、ひとりひとりの力が、子どもの力が、親の力が、醸し出して熟成してえも言われない空間を作り出していると思います。この人たちと、一緒にキャンプができることを幸せに思います。65歳になりました。僕の命の続く限り、キャンプを続けたいと思っています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/02/27

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