吃音親子サマーキャンプ20年
2025年の今年、吃音親子サマーキャンプは、34回目を迎えます。日程と会場は決まっていますが、夏のことなので、まだ本格的な準備に入っているわけではありません。でも、メールでの問い合わせは、少ないですが、来ています。
さて、今日は、吃音親子サマーキャンプ20年を特集している、「スタタリング・ナウ」2009.11.29 NO.183 を紹介します。このとき、集合写真を撮りました。サマーキャンプ史上、最初で最後の集合写真、奇跡の一枚です。その写真は、『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック』(解放出版社)の表紙を飾っています。本の表紙に写真を使う時も、ホームページで書籍の案内を掲載する時も、一人一人に紹介してもいいかどうかを尋ねました。全員が了解してくれたおかげで、今回も、奇跡の一枚の写真を紹介することができました。
吃音親子サマーキャンプの第1回は、1990年でした。まさか20回も続くとは…と、当時思ったことを思い出します。それが今年は34回。すごいことだなと、自分でも感心してしまいます。まずは、巻頭言からです。
吃音親子サマーキャンプ20年
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
1990年の夏はとても暑かった。
冷房のない民宿の暑さと、初めてのどもる子どもとのキャンプの熱気は、私の記憶の中で決して色あせることはない。あの場、あの空気、スタッフの熱い思い、琵琶湖の静かな湖面とともに。
1965年、民間吃音矯正所・東京正生学院で、初めて同じようにどもる人とたくさん出会えたとき、「吃音に悩んでいるのは私だけではなかった」という、いいようのない安心感が広がった。そして、せき止められていたダムの水が、一気に川に流れ出すように、どもることの苦しみ、悲しみ、怒りなど、これまで押さえ込んでいた吃音への思いを話した。そして、それを「僕も同じだったよ」とうなずき、一所懸命聞いてくれる仲間と出会えた。
あのときのうれしさ、喜びは、からだにしみていて、今でも、決して忘れることはない。
「僕も、生きていていいんだ」
こう心底思えるほどに、それまでの私は、どもりに傷つき、どもりに振り回され、孤独な、苦悩の学童期・思春期を送っていたのだった。
1965年秋、私は11名の仲間とどもる人のセルフヘルプグループを作った。様々な活動を共にするたくさんのいい仲間と出会った。いろんな活動を力の限り続けた。そして、いつの間にか「どもりでよかった」とさえ思うようになった。
セルフヘルプグループでたくさんのことを学び経験し、今は幸せだが、私の失われた学童期・思春期はもう戻ってこない。それがとても悔しい。今、どもっている子どもには、私のような、悔しい学童期・思春期を送ってほしくない。私が経験した安心感や喜びを子どもたちにも味わってほしい。そして、どもりながら、楽しい豊かな人生が送れることを知って欲しい。これがスタートだった。
なぜ、20年も吃音親子サマーキャンプは続いたのだろう。仕事として、またその延長としてしているわけではない。誰かに命じられて、また、責任感で続けているのでもない。いつキャンプをやめても誰からも責められることはない。やめることができるから続いているのだともいえる。
あの場が、あの場に流れている空気が、その場をつくりだしている人の輪が好きなのだ。
あの場、あのときの笑顔、笑い声が好きなのだ。
話し合いの中で苦しかったことを思い出し、ぽろぽろと涙を流す、うれしくて泣いてしまう、その涙をしっかりと受け止める静かさが好きなのだ。
そのような場が好きだという人たちが集まってくることがうれしい。
今年もスタッフが集まってくれるだろうか、あの人は来てくれるだろうか。私は毎年不安になる。そして、その人たちの参加申し込みが届くようになって、さあ、今年もやれるとほっとする。
今年も40名ほどがスタッフとして集まって下さった。不思議に思う。遠くから交通費を使って、家族を説得し、さまざまな事情を乗り越えてスタッフとして参加して下さる人たち。そうだ、この人たちがいてくれたから、20年間続けることができたのだ。
キャンプの終わりには、いつもスタッフに立ってもらう。子どもと親を囲むように立つ人たちに、本当にありがたいと思う。人間は一人では何もできない。ひとりひとりの力は小さくても、いい仲間が集まれば、大きな力になる。そして、こんなにいい空間を、知らず知らずのうちに、自分たちでも気づかないうちに作り出している。
この仲間たちに感謝するとともに、今回は、特別の感慨深い思いがあった。私たちの心意気を感じとって、キャンプのために毎年脚本をつくり、演出指導をして下さった竹内敏晴さんの劇を上演する最後のキャンプになったからだ。
6月初めにがんが発見されながら、脚本を完成させ、7月に劇のためのレッスンをして下さった。そして9月の初めに竹内さんは亡くなった。キャンプでは、竹内敏晴さんに感謝の気持ちを込めて、大きな拍手をしたのだった。竹内さんの役割を渡辺貴裕さんが継いで下さるのもうれしい。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025//02/25
