DCモデルによる吃音児指導の概要

 「スタタリング・ナウ」2009.7.21 NO.179 に掲載の、アメリカ・テンプル大学吃音予防クリニックの実践を中心にした、「DCモデルによる吃音児指導の概要」を紹介します。愛媛大学教育学部障害児教育研究室紀要掲載の水町俊郎教授の論文を、「スタタリング・ナウ」読者用に編集したものです。
 このような学術論文を紹介していますが、みなさんにこのDCモデルを推奨しているわけでありません。僕は「どもっている」そのままを全肯定しています。訓練的なものは一切しない、「吃音を治す努力の否定」が、僕の考えです。しかし、世界は依然として「流暢性」にこだわっています。その人たちがどのように考え、実践しているのかも知っておきたいと思いました。アメリカの臨床の中では役に立つ部分もあるので、紹介しました。

DCモデルによる吃音児指導の概要
~アメリカ・テンプル大学吃音予防クリニックの実践を中心に~
                           愛媛大学 水町俊郎

 「流暢性(fluency)は、環境の側からの、あるいは話し手自身が自らに課した、流暢にしゃべるようにという、Demands(要求、期待、指示、命令、プレツシヤー)が、話し手の認知的、言語学的、運動的あるいは情緒的なCapacities(能力)をある程度以上越えた時に崩壊する」

I Demandsを減少させる親のカウンセリング

《個人的セッション》

親への教育

◇吃音一般、その子どもの吃音についての情報を与えると共に、予後についても伝える
 一方的に多くの情報を与えるという情報の洪水は、親をますます不安にさせ、子どもの吃音に対する否定的な反応が増強される恐れがある。親からの質問、求めている範囲内の情報を提供する。
◇現実的な対応をとるよう指導する
 吃音が悪化する恐れと、小児科医などの「そのうちに治る」と言われたことへの期待感との間で揺れ動いている。放置しても治る可能性がないわけではないが、吃音が悪化する危険性が十二分あること、クリニックで指導を受けた子の殆どが、ぶり返すことなく改善されていることを告げる。
◇指導期間についての情報を伝える
 「両親のどちらか一方の家系に吃音者がいる」
 「子どもの吃音に否定的な情緒的反応を示す」
 「経済的・社会的など環境的ストレスがある」
 指導期間を長びかせる要因としてはこれらが挙げられるが、発吃して間もなく指導を受けた場合には指導期間は短くてすむが、長い間、指導を受けないままで放置されている子どもは、長期間の指導を必要とすることに、クリニックは注目する。
◇「沈黙の申し合わせ」をやめるよう指導する
 「今、ちょっと言いにくかった?」などと、吃音を話題にするために、子どもにどう語りかけたらよいかを具体的に指導する。また、子どもの前でときどき意図的に、楽などもり方をしてみせるように勧めるが、気が進まない親には強制しない。

親の態度の改変

 親は、主に不安や罪悪感から子どもの吃音を直視できず、子どもがどもった時に否定的な反応〔目をそらす、硬くなってじっと子どもを見つめる、急になにか他のことをし始めるなど〕を示しがちである。子どもはその反応の背後にある「どもることは悪い、困ったこと」を自分の中に取り込み、自分のものとしていく。子どもの吃音に対する親の態度を好ましい方向へ変えるよう指導する。
 アセスメントのためのビデオで、親の態度、対話のスタイル、話す速さなどをチェックしていく。また、子どもは常にどもっているわけではなく、流暢な部分も非常に多いことを親に指摘したり、以前より改善された子どものスピーチを親に確認させる。これまでの親の対応の仕方で適切なところや、子どもへの本能的愛情を賞賛し、承認する。これにより、親は罪悪感を減少させるだけではなく、子どもの指導にきわめて協力的となってくる。

行動の改変

◇親の話す速さを遅くする
 ビデオで、親のスピーチが如何に子どものスピーチに比べて速いかを指摘し、それが子どもに速く話すようにというプレッシャーになっていることを説明する。ゆっくりした話し方の手本を示し、親にもう少しゆっくりした話し方をするよう求める。多くの親は速度を十分に遅くでき、子どもの流暢性が劇的に改善されたという。

◇言語のレベルを下げる
 もっと短い文章、簡単な語彙を使うよう親に指示する。ビデオで、ハイレベル過ぎることばづかいの個所を具体的に指摘し、もっと簡単な表現の仕方の例を示す。親が適切に言語を使用している個所は、具体的に指摘し、賞賛する。しかし、親の言語レベルが高すぎるケースはそれほど多くなく、それほど有効ではなかったとの報告がある。

◇否定的な非言語的反応を除去する
 親の非言語的な否定的な反応は、子どもにとってはことばで言われる以上にプレッシャーとなる。吃音予防クリニックでは、親の否定的な非言語的反応の除去と、沈黙の申し合わせを破ることを最も重要な治療目標と見なしている。ビデオで、親の否定的な非言語的反応を具体的に指摘し、子どもがどもった時に、「ちょっとお話しにくかった?」と、子どもの前で言語化することを勧めている。
 親の否定的な非言語的反応を除去することは、予想以上に有効であったという。

◇対話のルールを確立する
 他人が話している途中でそれを遮ることは失礼なことだと、礼儀の問題として子どもを教育するよう親を指導する。子どもが4~5人の大きな家族の場合には、話す前に挙手をしたり、司会者をおくなど、公式の会議のようなやり方を指導する。

◇全ての注意を子どもに注ぐ時間をつくる
 幼い子どもの自信や自己価値観は、親から注目されることでより高まり、吃音児の場合にはそれが流暢性の促進要因となる。全ての注意をその子に注ぐ時間を意図的につくり、話しかけたり、物語を読んであげたり、ゲームをしたりするよう指導する。長くとる必要はなくて15分間位で十分であるが、できるだけ毎日とるようにしたい。

◇子どもに自信をつけさせる
 子どもは、音楽、スポーツ、工芸など、自分が得意とすることを親にほめられ、注目され、また時には親も一緒にそれをやってくれるとますます自信を深めるものである。吃音児の場合にはそれが流暢性の増加につながるので子どもの自信を深める努力をするように親を指導するのである。

◇demand speechを少なくし、親が話す
 子どもが興味を持ちそうな、親の自分の経験などを子どもに積極的に話すことを勧める。子どもの反応を待つと、しゃべりたい子は、親に問いかけてくる。反応を引き出すことを意図した直接的な質問をしてはならない。自分の経験内容をもう少し詳しく話して聞かせ、反応を待つうちに、子どもはその日のことを自主的に話し始めるという。

◇直接的治療技法を親にも教える
 クリニックで指導している場面を親にも観察させ、親にも学ばせる。治療効果を生活場面に広げるためには、クリニシャンと同じような対応を家庭でしてもらう必要があるからである。時間を作り、子どもの望ましい行動に対する強化の仕方や、ゆっくりしたしゃべり方や楽などもり方を家庭で子どもに示す方法を直接的に指導する場合もある。

《グループセッション》

グループセッション導入の理由
 当初、個人的セッションだけだったが、多くの親が罪悪感を訴えたり、子どもの発達上の様々な質問をするなど、個人的セッションだけでは不十分と考えた。また、待合室で親どうしが知り合い、腹を割った語り合いは有意義であり、インフォーマルな自助、支持グループを形成していた。そこで、週一回のグループセッションを指導の一環として正式に組み入れ、同時に、子どもの指導にもグループセッションが取り入れられた。

グループセッションの内容および経過
 「問題を確認すること」、「可能な解決法について自由に意見を出し合うこと」、「ひとつの解決法を抽出すること」と進んでいく。クリニシャンは、親たちの訴えに積極的に耳を傾け、訴えられた問題の背後にある親の気持ちに注意を払い、共感的に反応するようにつとめた。セッションの当初は、自分が子どもを吃音にさせたとの罪悪感のような、過去のことが話題となった。しかしセッションが進むにつれて、今使われる技法についての関心や不安、治療終了後のサポートネットワークの希望など、現在や未来のことに話題が移行した。

Ⅱ 子どものCapacitiesの向上をはかる

《個人的セッション》

◇流暢性が促進されるような雰囲気を作り出す
 「子どもは、流暢性が促進されるような状況下で過ごしている間に進行する学習と生理的成熟とが相まって、流暢にしゃべるための情緒的、言語学的、知的、運動的能力を発展させていく」
 この仮説のもと、子どもがのびのびとして、どもらずに話すことができるような機会をつくるために、遊びの中に流暢性が高まるような雰囲気を作り出すようにする。クリニシャンが子どもにゆっくり話しかける、難しいことばを使わない、時間的な余裕を持たせる、などである。それを家庭でも作り出せるように、親を具体的に指導する。

◇もがきや緊張があるケースに対する指導法
 吃音を少しずつ直視させ、吃音に対する不安を軽減させ、次にどもったしゃべり方を徐々により正常な非流暢性に置き換えるようにする。

◇吃音の直視と回避の軽減のための方法
 子どもに故意にどもる方法を教え、それがうまく出来たときにご褒美を与えるとか、クリニシャンと子どもとが交互に別の種類の非流暢なしゃべり方でやりとりする遊びをする。すでに吃音に強い嫌悪感を持っている子どもで効果的でない場合には、話すことについて話題にしている中で徐々に非流暢住についても触れていくようにし、吃音に対するある程度の耐性を作り上げていく。

◇吃音を正常な非流暢性に置き換える方法
 子どもが、どもるまいともがかなくなった時点で、非流暢なしゃべり方を変容させる直接的なアプローチを試みる。クリニックの実践では、約半数が、吃音に対する不安が減少してくると共に異常な非流暢性も大いに軽減されてきたという。残りの半数は、異常な非流暢性を正常な非流暢性に変容させるためのアプローチの導入が必要であった。
 まず、子どもに正常な非流暢性とどもったスピーチとの違いを弁別させる。次に、緊張の少ない、より正常な非流暢性に置き換えることにより、もっと楽などもり方の練習をする。基本的な技法は、クリニックではクリニシャンによって、家庭では両親によって、子どもの前である特定の非流暢なしゃべり方の手本を示し、子どもに真似させる。
 語全体の繰り返し→語の部分の繰り返し→ブロックという一定の進展過程を想定し、個々の子どもが示す非流暢性のタイプを起点として、このプロセスを順次、逆方向へひとつずつ辿っていく。

《グループセッション》

 個人セッションに加えて週1回の1時間のグループセッション導入の目的は以下の5つである。
①個人セッションで身につけたスキルを、現実的な場面へ広げる機会を与える。
②同じようにどもる大勢の仲間と接することで脱感作のプロセスを促進させる。
③仲間と会話のルールを守る練習をする。
④集団の中で個々の子どもの言動を観察することで、クリニシャンは、学校や幼稚園の教師により有益なアドバイスをする情報を入手できる。
⑤個人セッションを終えた子どもが、集団の中でうまくやっていけるかチェックできる。
 普通の幼稚園の雰囲気と同じで、先ず最初はお互いが知り合いになり、グループ感情が発展するような時問を設定する。次いで、物語をするというような言語経験へと進む。そして最後には、何かものを作ったり、料理を作ったりといった、子どもたちが夢中になるような活動を行う。(つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/02/10

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