特集:『どもる君へ いま伝えたいこと』(解放出版社)を読んで
『どもる君へ いま伝えたいこと』を読んだ方から感想をたくさんいただきました。その一部を紹介します。最後に、研修会で出会った静岡県の校長先生からいただいた「おたより」も紹介しています。
どもる私たちへのメッセージ
藤岡千恵(大阪スタタリングプロジェクト)
大阪吃音教室に通い始めて現在まで、数々の伊藤さんのメッセージに出会った。私の胸にスーッと染み入る、そのメッセージをいつもメモに書き留めていた。
そのメッセージの多くが、この『どもる君へ、いま伝えたいこと』の中に、ぎっしり詰まっている。「あの時の伊藤さんのことばだ」と振り返るものも、いくつもあった。
ここに書かれてあることは、大阪吃音教室に通い続けている私にとっては、特に目新しいメッセージでもないのだが、本をめくり、数々の温かいメッセージに出会うたびに勇気づけられた。
この先も迷ったり、立ち止まったりした時の私の背中を優しく押してくれる一冊だと感じている。
大阪吃音教室に来て「どもりについて」「自分について」「自分のどもりについて」の勉強をしているうちに、「どもりを治したい」という気持ちはだんだんと影を潜めたが、「どもりを受け入れたら、この先どもりで悩むことはなくなる」と、大きな勘違いをしていた。しかし、「どもるのはしょうがないよね」と苦笑いしたり、どもりについて真剣に話し合ったり、時には涙しながら話したりしている仲間たちの空間にいるうちに、時に悩みながら、「死ぬまで、どもりとつき合うんだな」という気持ちが生まれてきた。
「どもるのはイヤだし、どもったら恥ずかしい」
そういう気持ちをごまかさず、自分の感情と丁寧につき合い、素直に生きている人たちの姿を見ていて、知らず知らずのうちに私の中の気持ちも変わってきたようだった。
自分の弱いところを認めることは、本当に勇気のいることだと思う。その勇気は、もしかしたら、悩んで苦しんで辛い思いをした人に与えられる特権のようなものかもしれないな、と思う。
『どもる君へ』の中の小学生の作文を読んで、とても「うらやましい」と思った。
10代または10代に満たないうちに、吃音親子サマーキャンプなどで、「どもり」についての考え方を変えてしまうような出会いを経験した子どもたちは、その後の生き方もそれまでとは違うものになるのだと思う。私も、子どもの頃から「どもりも自分の一部」だと感じられたら、どんなに楽だっただろう。
うつむいて、全てをどもりのせいにして、いろんなことから逃げてあきらめて、孤独だった私の10代20代を振り返ると、どもる自分を生きている、または生きていこうとしている小学生や中学生の彼らが眩しくもある。
それに、やはり「仲間」が大切なんだと、改めて感じさせられた。どもり方も、どもりの悩みも違うたくさんの仲間がいる。違うからこそ、話が深まるし、仲間からも学べる。
私も、どもる仲間に出会えたことで変わってきたと感じている。そして、今、生きていて初めて心から「人生が楽しい」と思える。
自分の格好悪いところや弱いところ、変えたいと思うところや好きなところを知り、試行錯誤しながらも生きている今の自分が好きだ。
自分のどもりや、どもる仲間と、これからもずっとつき合っていきたいと思っている。
「どもりについて・人生についての考え方」を広げてくれ、たくさんの仲間に出会わせてくれたことに感謝します。
子どものバイブル
安藤百枝(言語聴覚士)
素晴らしい本ができました。子どもたちへのメッセージ、一つ一つのことばに伊藤さんの「思い」が詰まっていて、重さがずっしりと伝わってきます。身体の底からわき出ることばに子ども達は励まされ、勇気づけられることでしょう。
質問もとても具体的で、その質問に心をこめてわかり易く丁寧に書かれているので、小学生の時にこの本に出合えた子ども達は幸せですね。
私のどもる息子のことで悩み、あちこち相談に行った頃、このような本があれば、どんなに助かったことかと思います。
ことばの教室の先生にとっても子ども達にとっても間違いなくバイブルです!!
21才からの伊藤さんの43年の歩みはとても貴重なものですね。もちろん、21才までのつらい日々の積み重ねがあってのことですが…。
吃音を持った生き方、吃音に対する気持ちは百人百色でしょうけど、伊藤さんの場合、吃音は充実した人生につながる「宝物」のように思えます。今後もますます磨きがかかる宝物です。
ほんの少しですが、私もその宝物に触れることが出来て幸せに思います。
多くの人に読み継がれていきますように
牧口一二(ゆめ・風・10億円基金事務局長 NHK『きらっといきる』司会者)
『どもる君へいま伝えたいこと』、若い人たちへのメッセージ、とても解りやすくて、伊藤さんの並々ならぬ執念さえ感じながら読みました。
「なおる」ということへの願いは、足が動かない人生をやってきたボクでさえ想像できないほど強い欲求なんですね。ご本の中で竹内敏晴さんも少し触れておられますが。
それだけに社会の一員として責任を感じます。とともに「なおる」と金儲けする人々が、それも少なからず存在することに心が痛みます。どうか、この本が悩める若者に、そして多くの市民に読み継がれていきますように。ボクは読んでほしい人にできるだけ紹介します。
NHKの『きらっといきる』という番組に、10年間、司会者として出演しています。たくさんの病気や障害とともに生きる人を取り上げてきましたが、伊藤さんと長いつきあいがありながら、「吃音」を取り上げてこなかったことに今気づきました。担当ディレクターに提案しました。問い合わせがあったらよろしく。(2008.11.7 放送実現)
ある小学校の校長先生からの、子どもたちへのメッセージ
2007年10月、静岡県の言語障害研究会でお会いした小松洋校長。「子どもの頃、どもっていて、恥ずかしく辛いことがたくさんあったが、教師や友だちの励ましの温かさを今でも思い出す」と話して下さった。学生の頃に、私の著書『吃音者宣言』(たいまつ社)に出会い、それが大きなターニングポイントになり、今に至っているとも聞いた。
2008年12月18日、小松校長が、終業式で子どもたちに話した内容を掲載した、便り「ふたごやま」を送って下さった。自らの体験をもとに、大切なことを子どもに伝えようとしている〈同志〉がいる、と思った。 ~便りの一部を紹介します~(編集部)
苦手なことに挑戦する勇気をありがとう
小松洋(掛川市立西郷小学校校長)
表彰をされた人たちは、陸上に、習字に、工作にと自分らしさを発揮して賞状をもらうことができました。私は、みなさんの取り組みを見てきて、ここにいる西郷小学校の一人一人が自分ならではの色をかがやかせたと感じました。
門のところで止まってくださった車の運転手さんに「ありがとうございました」と頭を下げて、気持ちの良いあいさつをする姿、「大変そうだったから」と友だちの荷物を持って学校まで来る姿、鉄棒や縄跳び、跳び箱の様々な技に挑戦する姿、また授業の中で思い切って発表する姿、イライラして友だちとケンカになった時「ごめんね」と謝ることができた姿もたくさん見られました。
私は、そうしたみなさんの毎日の生活の中の「一歩」、自分の苦手なこと、うまくいかないことに挑戦する勇気を見ることができて、大いに励まされました。心よりありがとうと言いたいと思います。
一人の友だちを紹介します。これは誰でしょう。
(ざわざわする中で「校長先生」というつぶやき)
その通りです。これは、私の小学校2年生か3年生のころの写真です。
今から47年も前のものです。自分の小学生のころを振り返ってみると、自分はなんて意気地なしだったんだろうと思います。
小学生の私は、発表や本読みが大の苦手だったのです。今もみなさんは、私が話の途中で言葉が止まってしまうのはどうしてなんだろうと思うことがあると思います。
私は時々言葉につまってしまいます。「どもる」のです。難しい言葉で「吃音」と言います。私は小学校2年生のころからどもってしまう自分が嫌で嫌でたまりませんでした。友だちから笑われたり、からかわれたりもしました。ケンカになると、「やい、どもりのくせに」と言われたこともありました。授業中に順番に本を読んで、当てられても全然読めなくて泣いてしまいました。家では何回も練習して読めていても、みんなの前だとダメなんです。いつしか私は発表や本読みをまったくしない子になっていました。どもる自分が嫌で、ダメなやつだと思いこんでいたのです。「一歩」ふみ出す勇気がなかったのです。
だから、今、みなさんが自分のできないことや苦手なことに勇気を持って「一歩」ふみ出し挑戦する姿に、すごいぞと励まされるのです。
そんな意気地なしの自分が「一歩」ふみ出せたのは、中学3年生の時でした。私がどもっても笑わずに話を聞いてくれるクラスの仲間がいました。悩んでいる時、そっと背中を押してくれた先生や家族のおかげです。
そしてどもってもいいんだ、どもりながら話す自分が私なんだと思えるようになったのは、20歳の時でした。
誰にもうまくいかないこと、できないこと、苦手なことがあります。でもうまくいかない、苦手なことがある自分が自分なんだと思うことが大切なように思います。あなたはあなたのままでいい。あなたは一人ではない。あなたには力がある、のです。
2年生の学級担任が「校長先生がみんなに伝えたかったことは何だろう」と問いかけた時に子どもたちが答えたものを紹介します。
○一人一人ちがうから、いつ自信がもてるか一人一人ちがうんだよ。
○失敗はあるよ。自転車もいっぱい練習したからできたよ。
○苦手なものも自信をもって練習してね。
○中学3年生の時、ことばにつまっても笑わなかった友だちがいた。クラスのみんなも言えない人を応援してね、と言いたかった。
○一人でも言えない人がいるなら、校長先生みたいに言えるようになってね。
○全校の子どもたちの中には、みんなの前で言えない子がいるかもしれないけれど、自信をもって、と言いたかった。
○自分のことを好きになって、と伝えたかった。
○私も教室でかさこじぞうを読んだとき、家では上手に読めたのに、うまく読めなかった。小さい声で読んだのは校長先生と同じだったよ。
○なかまのことを忘れちゃダメだよって。
『どもる君へ いま伝えたいこと』は、今も読み継がれていて、ロングセラーです。ご希望の方は、アマゾンでも買えますが、僕からもお送りすることはできます。ニュースレター『スタタリング・ナウ』などいろんな資料を同封してお送りします。1,320円分の切手をお送りください。送料はこちらで負担します。
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日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/02/01
