第6回千葉県吃音相談会&学習会

 ことばの教室訪問の翌日、11月30日は、第6回千葉県吃音相談会&学習会でした。

 これまでは、千葉市内で開催してきたのですが、今年は、柏市のことばの教室担当者の礒谷さんが、どうしても柏市で開催してほしいと強く希望されたので、柏での開催となりました。
 柏市に行くのは初めてです。千葉市内のことばの教室から車で1時間半くらいかかりました。礒谷さんが、柏から千葉市内へ行くのはちょっと遠いからと言ったのがよく分かりました。会場は、さわやかちば県民プラザ。すてきな会場でした。礒谷さんが、柏の広報に案内を出してくれていました。これまでは、ことばの教室に通っていて、担当者から案内されて、相談会に参加するということが多かったのですが、今回は、参加申込者のほとんどがことばの教室に通っていません。そこが、いつもと違い、新鮮でした。事前に送ってもらった質問にも、「治療」や「病院」という言葉が出てきて、吃音は教育の場でと考えている僕としては、より丁寧に話をしなければという思いになりました。
 さて、参加者の多くは、僕のことを知りません。話を聞いたこともありません。昨日の千葉市のことばの教室に通級する子どもたちは、事前にNHK Eテレ「フクチッチ」の映像を見たり、僕の本を読んだりしていましたし、ちばのキャンプで会ったことのある子もいましたから、ずいぶんとスタート地点が違っています。
 まず、どういう人物がここに来たのか、僕という人物を知ってもらおうと、僕の人生を3つに分けて話しました。僕の人生は、くっきりと3つに分けられます。それぞれの時期の僕の様子やそのときの出来事を話し、そのとき、僕にどんな力があったのか考えてもらい、今回のメインテーマである「非認知能力」につながる話をしました。

 その後、質問してもらいましたが、事前にもらっていた質問は下記のとおりです。当日は、これにこだわらず、そのときその場で浮かんだ質問をしてもらいました。

・4歳からどもり始めて、今7歳。自分の思いを伝えたいときにどもる。家庭で何かできないか。
・学校ではどもらないようだが、家ではかなりどもる。話しづらそうにしているとき、どう声をかけたらいいか。
・波がある。治療はどうしたらいいか。病院を教えてほしいし、家でできることを教えてほしい。とにかく良くしてあげたい。
・宿題の音読が進まないとき、どうしたらいいか。
・友だちがいないし、コミュニケーションをとろうとしない。親としてどうしたらいいか。
・不登校になっている。まずは、どもる仲間とつながってほしい。

 これまで吃音について、相談するところがなく、いろいろとひとりで考えてこられたことが伝わってきます。
 なんとか治してあげたい、できるだけ軽くしてあげたい、このまま大人になったらつらいのではないか、やっぱり治るものなら治してあげたい、どもっていたらかわいそう、など、親として、ある意味当然かもしれませんが、そんな思いがあふれていました。

 僕は、自分の体験をもとに、ひとつひとつ答えていきました。話した内容を簡単に箇条書きにします。

・治してあげたいと思う気持ちは分かるが、治す方法はない。
・どもっていたらかわいそうと言うけれど、もし、あなたが自分の親からこの子はかわいそうと思われたらどんな気持ちになるだろう。かわいそうと思うのは、子どもに失礼だ。
・治してあげたいということは、今のままではいけないということ、今の子どもを否定していることになるのではないか。どもらない方がいいという価値観を植え付けることになる。
・どもりそうなときに、「エー」とか「アー」とかつけたらいいと言語聴覚士からアドバイスをもらったけれど、そんな訓練をしてもいいのかとの質問には、本人が自分で工夫していくのはいいけれど、わざわざ教えてはいけない。ことばは他者が操作できるものではない。
・大切なことは、本人抜きにはしない。家族会議で話し合おう。
・将来の仕事については、できるだけ早くから考えよう。好きなこと、夢中になれることをみつけることが大事。
・いつか治る、いつか治ると思うことは、残酷なこと。どもる覚悟を決めることが大事。
・ことばの教室に通うより、好きなサッカーに熱中する方がいいのかとの質問には、好きなことに熱中するだけではだめで、吃音としっかり向き合うことが必要。ことばの教室は、楽しいだけではダメで、吃音とつきあうための吃音の学習をしているところがいい。
・世の中に治らないものはある。治らないものを治そうと、いつまでも追わない。
・早口でしゃべるから何を言っているのか分からないので、「ゆっくり言って」と言いたいが、「ゆっくり言って」は言ってはいけないと、ネットで見た。どうしたらいいかの質問には、「あなたの話を聞きたいから、もう少しゆっくり言って」と言っていい。言わない方が失礼。早口だと思ったら、ゆっくり、母音を意識して話すようにしたい。

 午前中2時間半は、保護者を対象にした時間でした。少しオーバーするくらい、たくさんの話が出ました。
 印象に残ったことばがあります。「なんで、僕のおなかの中には、ことばが出ない虫がいるのだろう」との子どもの言葉です。子どもはいろいろと感じ取っているのですね。
 
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/12/03

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