第18回吃音親子サマーキャンプをふりかえって 2 2025年、第34回吃音親子サマーキャンプの日程が決まりました!
第18回吃音親子サマーキャンプは、参加者総勢138名。その内訳は、どもる子ども45名、きょうだいたち12名、親44名、スタッフ37名でした。スタッフは、ことばの教室の担当者、病院のスピーチセラピスト、小学校や中学校、養護学校の教師、大学生、成人のどもる人たちで、サマーキャンプの卒業生7名も含まれます。 芝居は、『チイ姫ちゃんとアントン』、エートリヒ・ケストナー原作を、竹内敏晴さんがサマーキャンプ用に構成・脚本・演出して下さったものです。 アルコールもおやつもゲームもケイタイも一切なしのサマーキャンプ。自分をみつめ、仲間をみつめるサマーキャンプ。この珍しい空間を、参加者の感想で想像してください。
来年の第34回吃音親子サマーキャンプの日程と場所が決まりました。
日程 2025年8月22・23・24日
場所 滋賀県・彦根市荒神山自然の家
第18回吃音親子サマーキャンプに参加した、ことばの教室担当者の感想のつづきを紹介します。
あのキャンプから2ヶ月過ぎて
千葉県市原市立有秋東小学校ことばの教室担当者
あの、心をユサユサと揺さぶられたキャンプからもう2ヶ月も過ぎようとしている。でも、まだつい昨日のことのように、さまざまな場面が浮かび、ジーンとなる。
滋賀県荒神山での『吃音親子サマーキャンプ』のことは、10年ほど前に知り、いつかは…と思ってはいたが、遠いということもあって、踏ん切れなかった。しかし、昨年から担当していた2年生の男の子が「どもることは、そんなに気にしていない」と言いつつ、ことばの教室に入ると、周囲から見られないように鍵やカーテンを閉める行動が出てきて、「どもる自分は嫌いだ!」と言い始めた。
サマーキャンプのことを親子に話し、参加を勧めた。忙しいことや遠いことを理由に断られた。熱心に勧めながら、自分はビデオや話で知っているだけで体験していないということ、体験していない者がいくら言っても伝わらないことを感じた。そこで今年こそ!と思ったのである。
3日間はぎっしりスケジュールいっぱいで初めての者なのに「スタッフ」の一員となり、こんな動きでいいのかとオロオロしながらもその「渦」の中に入っていった。話し合いと劇中心の時間の中に「どもる」ことが当たり前の空気。あ~、この空気が、どもる自分と向き合い、受け入れていく、肩の力が抜ける空気なんだなあと感じた。
山の上からの琵琶湖の展望も、このキャンプの象徴のように思った。自分の足で歩き、ちょっと苦しいけど仲間と登り、日本一の湖を眼下にして得られる満足感。
『チイ姫ちゃんとアントン』の劇。こんなに長く難しいセリフを3日間で…?と思ったが、それも皆で作り上げ、一人一人緊張感と向き合いつつ演じていく姿。それも幼い子から大人までの集団で、力を合わせて。
こうやってひとつひとつのことを思い出すだけで、ああこの気持ちがまた来年も…と思うんだなあと納得した。
まさに伊藤一家の一員になってしまうのである。あんなに大勢なのに、あの中に入ったときから「家族の絆」ができるんだなあと思った。この「家族」となる絆は、やはり「吃音」を通して生まれること、そして何より、伊藤さんを初めとするスタッフの、皆を抱きかかえる懐の大きさだと感じている。
頭に浮かぶ子どもたちの顔の中に、二人の気がかりな女の子がいる。来年また会って「劇の練習をしようね」「今年は舞台に立とうね」と言えたらいいな。
今も私を支え、後押ししてくれるキャンプのエネルギー
岐阜県各務原市立鵜沼第一小学校ことばの教室担当者
多くの親さんが「先生がなかなか吃音のことを分かってくれない」と訴えておられました。私はまだまだ入り口ですが、吃音について知れば知るほど、「子どもたちのために私たち教師はもっと学ばなければならない」と強く思うようになりました。しかし、残念ながらこの一ヶ月間で、特別支援に何年間も携わっている教師達ですら吃音については無理解であることを,知らされました。
キャンプ翌日の27日、私の勤務する市内で第一回通級指導教室担当者7名の連絡会が開かれました。その中で私は、昨日まで一緒に過ごし語り合ったみんなのことを思い浮かべながら、吃音について訴えようとしましたがなかなかうまく話せません。一人の「だから何が言いたいのですか」のきつい一言で口ごもってしまい、やっとの思いで「みんなで勉強する必要があると思う」と結びました。
そういう私も、昨年1学期に岐阜大学で廣罵忍先生から吃音について学び、やっと2学期から初めて私の教室で吃音の子を受け入れ始めたばかりで、現在は6名が通級しています。
そのうちの2年生の子の場合、母親からの話があるまで担任も特別支援担当者も気づきませんでした。真面目な口数の少ない子と見ていたのです。担任はすぐに家庭訪問をし、今まで気付かないでいたことを謝ったそうです。
別の5年生の子は、チック症状が強く出て何年間も吃音について苦しんでいたにも拘わらず、校内で適切な対応ができず、今年1学期にはとうとう不登校傾向になってしまいました。担任から相談を受け、吃音について私なりに訴えました。その後専門機関に相談したり母親と話し合ったりした結果、2学期は元気に登校しています。
先日、6年生のある子の学校を訪れた時、学校の見解で「吃音はあるが本人が前向きに生活しているし公的な場でも活躍しているから問題ない」となっていた子がいます。通級はしていませんが昨年度も話題に出されなかったのを私が配慮をお願いして帰りました。確かにまわりにとっては「問題なし」かもしれませんが本当に本人の気持ちを考えたならその一言ではすまないはずです。母親は吃音について触れられないでいるとのこと。
キャンプで卒業生の皆さんが「中学校が一番つらかった」とか「ありのままの自分を語れる友を持てたから生きられた」と話されたことを思い出し、「心を開いて話せる人を持っているか。来年は中学校に進級するが、よく見守り配慮をしてほしいと申し送らなければならないのではないか」ともう少し深く理解してもらうよう訴えて来ました。
その後、担任の先生とじっくり話してみると、集団の中で排除されそうな場面があっても良く見守り、自己肯定感が持てるような励ましをしておられることが分かりました。
この3人の先生のように、子どもの心に寄り添おうと努力している先生はたくさんいます。だからこそ、先生方と吃音について学ぶことができたなら、もっと的確な指導ができ、きっと子どもたちはもっと幸せになれるのに、と思うのです。しかし、現実の壁は厚いです。
来年1月末には教職員組合の障害児教育部の東海地区大会が岐阜で開かれます。私はその内容についての意見を求められた時、前述の会議の一件でかなり落ち込んでいてためらいましたがサマーキャンプで会った方々の思いに後押しされながら勇気を出してまた同じ事を訴えました。そこでも特別支援担当教師からの否定的な反応もありましたが、司会者の先生が「自分も今まで知らなかったがとても大切なことだと思う。具体的にどうしたいのか」と真剣に受け止めてくれ、私は「伊藤伸二さんを招くなどして欲しい」と訴えました。
さて、先日私の教室にやってきた2年の男の子の連絡ノートに、担任から「最近、声が小さく元気がなくなってきた」と書かれていました。彼が話すうちにどうしても聞き取れない部分があり聞き返しました。彼は、一瞬悲しそうな表情を見せましたが、すぐに「Dog!」と英語で言い換えて、にこっと笑いました。なるほど、さっきの言葉は「いぬ」だったのか。キャンプでみんなが言っていた”自力で切り開いていく”とはこういうことなのか。だとしたら、彼が前のように大きな声でのびのびと自分の思いを十分伝え切るための言葉を増やしていくことなら私にもできるんだ、と考えたらうれしくなり、「そうそうそれでいいんだよ!」と思わず大きな声を出した私です。
キャンプで会ったみんなは、今も元気で、伝えたいことを伝え切っているだろうか、とその時もまたみんなのことを思い出していました。
参加者全員の前向きの大きなエネルギーの詰まった演劇の構成練習の竹内敏晴さんの事前レッスンとサマーキャンプの合計で五日間は、私も前向きでいられるように、こうして今も確かな力で支えてくれています。
吃音親子サマーキャンプの出逢い
広島市立五日市東小学校ことばの教室担当者
私は、今年の4月からことば・きこえの教室を担当している。ここで、初めて『吃音』ということばの意味を知った。今までにも、私は吃音の子ども・吃音の大人の方に出会ったことがあった。しかし、その人たちに出会うたびに正直、「どうして、この人はうまく話せないのかな? 緊張しているのかな?」と思っていた。
私は、ことばの意味をもっと理解したいという気持ちと、吃音の子どもたちに対して、どのように支援すればよいのか知りたいと思った。そこで、吃音の意味を知る手がかりとして私は、このキャンプのDVDを先輩から貸してもらった。
DVDを見て、吃音の方々が抱えている悩みや吃音と向き合う姿をみて、私は今まで吃音に対して何も知らなかった自分が恥ずかしくなると同時に、今まで私が出会った吃音の方々に対して思っていたことが、申し訳なく思った。その思いを大切にしたいと思い、実際にこのキャンプへ参加させていただいた。
今回キャンプに参加して、私が強く感じたことは、キャンプ3日目には、参加者ひとりひとりが自分らしく輝いていることである。吃音の子ども、吃音の子どもの傍らにいる両親、そして様々な立場であるスタッフ…すべての人たちひとりひとりが自分の輝きを、キャンプを通して得ているのではないだろうか。その背景には、キャンプで大切にされている『あなたはあなたのままでいい。あなたは一人ではない。あなたには力がある』このことばが柱となりキャンプが構成されているからだと思う。
私は、子どもたちの話し合いでは、小1・2年グループに入ったが、私が想像していた以上に、子どもたちは自分の吃音を感じ、周りの友だちへも自分の吃音を発信しようとしていた。吃音をもつひとりひとりの子どもたち、そして大人が、こんなにも自分としっかりと向き合っている姿を目の当たりにした。
キャンプの閉会式の時に紹介された作文の中で、ある保護者が子どもに向けて送ったことばに心を打たれた。
「あなたに吃音があるのは、大人になるための肥料だよ」と。
確かに大人になるにつれて、人は皆それぞれに、自分に向き合い、コンプレックスも見えてきて、悩み、そして乗り越える。多分吃音の子どもたちは、早く自分に向き合う日が来るのだろうと思う。
自分と向き合うことは、ことばで言うほど簡単ではないし、苦しいこともある。それでも、向き合うことで、目には見えない心の成長があると私は思っている。
私は、このキャンプを終えて振り返ったとき、全ての子どもたちに、キャンプでの子どもたちのように、自分と向き合える勇気を持ってほしいと思った。
私は、教育現場を通して、キャンプの柱である言葉を子どもたちに伝えていきたい。『あなたはあなたのままでいい。あなたは一人ではない。あなたには力がある』と。
最後に、このような大切な思いに気づかせて下さったキャンプで出逢ったすべての方々へ感謝の気持ちでいっぱいである。ありがとうございました。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/11/07