自分を活かし社会に生きる 2
大阪吃音教室でのできごとを挟みましたが、村山正治さんの講演のつづきです。
読んでいると、僕は、つくづく、セルフヘルプグループ型の人間だなと思います。わいわいと話しながら、何かを作り上げていく過程が楽しいです。
【講演会】「自分を活かし社会に生きる」
~セルフヘルプグループの思想と豊かな可能性~
九州大学教育学部教授 村山正治(当時)
1996年
エンカウンターグループの特徴
少し違う角度から、私たちのやってきたエンカウンターグループの特色を挙げておきます。
セルフヘルプグループはだれか特定のリーダーが引っ張っていくというよりは、どちらかというとリーダーはいわば黒子で、そういう状況をつくることに一生懸命になる。特色は3つあります。
(1)相互啓発、相互援助
グループは人生の縮図で、いろんな方が 、お互いに触れ合うと、それだけでも世界が拡大する気がします。こういう生き方をしている人がいるとか、こういう人がちゃんと生きているとか、みんな能力の違いはあるけれども、生きるという点に関しましては、みんなちょぼちょぼなんだなという感じがします。一人ひとりの生きているということ、そこにその人がいるということ、そこにかけがえのない一人がいて、一人がみんなに影響を与える。
(2)リーダーシップの分散
できるだけリーダーシップをメンバーと共有する。リーダーが、メンバーがやれる部分をとってしまわない。つまり、メンバーがある人に貢献できることはとても大事なことです。
例えば、私がアメリカのグループに出たときに、そういうことを学びました。私は英語をしゃべるのが得意じゃないから、話し合っている内容がよく分からないからグループに貢献できていないと思っていた。人間っておもしろいもので、言葉が飛び交っているときは人間の心の深いレベルの交流が起こっていないことも結構ある。交流が深くなり、だんだん自分の内面のことに触れてくると、こうでもないな、ああでもないなと、非常にペースが落ちてきます。そうすると、僕の出番が来る。言葉が速いスピードで飛び交っているときは全然分からないが、深いレベルになるとその人のフィーリングが伝わってくる。気持ちを感じることができる。そうすると、言葉の障害が非常に少なくなってくる。あるときに、僕は女性のメンバーから抱きつかれてびっくりした。「おまえが一番自分の気持ちをわかってくれた」というわけです。
エンカウンターグループとは、10人メンバーがいれば10人の鏡で自分を見る。10人のフィードバックが返ってくると言えると思います。
1対1のカウンセリングと違って、変化していく要因をもらうのはカウンセラーだけじゃない。メンバーの一人ひとりがいろんな材料を返してくれる。メンバーに対する援助の行為をリーダーが独占しないことが大事な相互啓発性の特色です。
私たちがリーダーとして大事にしているのは、メンバーの所属感が確保されないときの対応です。けんかになって「おまえは出ていけ」とかが起こり得ます。会に来ること自体がその人の所属感が確保されているわけで、対立があっても一方を出すことはしない。また、特に初期の段階で起こりますが、我々の不安が高く、まだ信頼感が出ていないとき、人間はだれかを攻撃する。スケープゴート現象です。ちょっと変わった人や、変な人と受け取られやすい人に対して、批判したり、それへみんなで乗っかかっていくような、「いじめ」のようなことが起こったときには、リーダーがきちっとその人をサポートしないといけない。
この2つぐらいがリーダーが大事にしていくポイントで、あとはメンバーに任せてしまう。メンバーが助ける力を感じてもらうようにするのが私たちのやり方です。
(3)ネットワーキング
既存の組織、職業上の立場、居住する地域、性別などの制約を超えて、ある目標や価値を共有している人の間で、つながりを持つことをネットワーキングと言っています。これは我々の想像以上に、メンバーの間ですごいつながりができて生まれてきました。
この場合に大事なのは、ネットの核が一人ひとりのメンバーであるということです。ネットワーキングというと何か集団を連想しますが、一人ひとりが発信できるのがネットワーキングの最大の新しさであるとすれば、そこが特色です。だから個人個人をつないでいく意味のニュアンスがとても強い言葉だと私は受けとめています。ネットワークの間は対等の関係ですから、支部や本部という関係はつくらないということになります。
サテライト・ネットワークの誕生
地域に根づいたネットワークの誕生と呼んでいる、今みたいな活動をしていますと、私の予想に反したおもしろいことが生まれてきました。私たちのグループのメンバーだった人が、核分裂を起こし生物がふえていくように、核分裂を起こして、たくさん周りに出てきました。
不登校のお母さんの会の「主婦のための火曜会」。村山とはつき合っていくが少し距離を置こうとする若い人が中心の「月曜会」。コーヒーを入れるのがとても上手な人がリーダーで、コーヒーを飲みたいときはそこに行き、話して帰ってくる、「準の喫茶タイヒ」。北九州のお寺を借りて月1回やっている「北九州で集まれ場」。当時会を作った一人の、精神科医の山田宗良さんの「山田酒話の会」。
これらを、サテライト・ネットワークと言っています。いろんな衛星グループができてくるわけです。また、これらは始めたからずっと続けなければならないことはないので、お休みのところやもうやめたところもある。これを自発的、自然発生的小グループの出没と呼んでいます。できたり、休んだりが、実は楽しいところです。
こういうグループは、ある程度楽しみでやるというのが大事だろうと思います。あまり一生懸命やると、燃え尽きてしまいます。ある調査によると、こういうグループのオーガナイザーで自殺している人が結構いらっしゃいます。活動を自分だけでしょい込むと大変なエネルギーです。別に仕事を持ち、活動を仕事として維持しようと思い込んだら、大変なことだと思います。だんだん人がついてこなくなることもありますから、余計きっくなる。楽しめなくなったときは、中止したり休止することが大切です。もともと自分のためにやっている部分があるわけだし、これでお金を稼いでいるわけでもない。心理的な自分の満足感と自己発見がねらいの中心ですから、やめてしまっても構わない。私たちのところは幸いなことに、私が大学に籍が今ありますので、若い人と接触する機会が多い。私の大学院の学生で関心を持つ何人かが参加して、会を続けていくエネルギーになって、私がバーンアウトしないで済んでいます。
また、現在は村山尚子がキーパーソンの一人として会を支えています。私は金沢に来たりして、講演をしたりしていますが、月例会には年に5、6回しか出ていない。
もう一つおもしろいのは、援助ネットワークができるということ。不登校の子どもとご家族が一緒に参加されます。カウンセリングをグループでというのは、僕の考えでは、横をつなぐとてもすばらしいチャンネルだと思うんです。だけど縦の深みに関しては、例えばフォーカシングや個人カウンセリングも大切です。ですから私たちは、自分の心の成長とか、自分を探していくときに、自分にとって何がいいかを考える。グループがいい人もいるかもしれない。ある段階でグループを出たら、個人カウンセリングなどで自分をもっと縦に深めたいということも起こるかもしれない。そういうときに、我々カウンセリングの専門家がちょっとは役に立っています。また、子どもさんたちが困っているということであれば、適切なカウンセラーに紹介するなど、専門家がグループに貢献できる部分じゃないかと思っています。
どんな心理的な意味があるのかを整理します。
①自分自身を受け入れてくれる場
自分の嫌な部分も含めて受け入れてくれる場になっている。
②安全なシェルターとしての場
我々は社会的な普通の生活では批判などを受けますし、絶えず人に合わせないといけないというようなことがありますが、ここでは人に合わせなくて済む。だから、エネルギーを充電する癒しの場ということになる。
③人生観の多様化を学ぶ場
いろんな生き方、いろんな考え方があるということを嫌というほど学習します。
④自分を開くことができる場
こういう会はやっぱり安心して心を開くことができるという場になっている。
⑤心理的な自由が保障される場
一人ひとりの考え方が保障される。
⑥人に触発される場
いろんな人に触れることで自分のさまざまな側面が触発されるということがアンケートをとった結果分かってきた。自分を探すことにそれなりに役に立つ。そこで役に立っている自分が見つけられたりして元気が出る場になっている。
まとめ
グッドマンは、セルフヘルプグループが精神衛生サービスの主要な形態になるだろうと言っています。専門家以外の人々によって行われるいわば一種の相互援助活動であるということ、同じような問題を共有する人によって行われる相互援助活動であるということも言っています。そして、そういう援助活動を行うために、いろんな形で組織された市民レベルの活動と考えていいと思います。
専門家は援助をしますけれども、専門家が中心ではないことがポイントです。何らかの共通の体験を軸としている。しかも、オープングループの形態をとり、ネットワーク型ですから、横の関係が強い、対等の関係が強いという特質を持っていると思います。
こういうふうに見てくると、現代が転換期であること、我々が今までつくり出してきた制度とか慣習がいろいろな意味で揺らいでいる中で、我々を支えているのは血縁とか地縁とか、必ずしもそういうことではなくなってきている。我々には見えない心のつながりといったものがとても大事になってきているのではないか。そこにセルフヘルプグループが生まれてくる必然性があると思います。
グループの一つのサンプルとして、福岡人間関係研究会の私たちの試みをお話しました。
いろんな形が可能だと思います。しかし大事なことは、こういう形の援助ネットワークというものが、現代的なシステムであって、これまでのシステムを補完するのか、取ってかわるか分かりませんが、少なくとも補完するとても大事な開かれたシステムです。そして、できるだけメンバー一人ひとりが中心で、相互関係の強い横型の組織なんだということです。
そういう中で自分探しをし、自分で旗揚げして組織を作ったり、変化していく過程を体験しながら、対人関係を学んだり、人のことを理解したり、自分のことを発見したりするようなシステムです。かつ変化していくシステムであって、この世界の転換期には大変重要な一つのシステムとして我々人間が生み出してきたものです。これからますます重要になってくるのではないかと考えています。(了)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/11/03