アンパンマンの秘密
僕の家の近所に、絵本カフェ「ハーゼ」という、絵本がいっぱい置いてあるかわいいカフェがあります。散歩の途中、偶然みつけた店なのですが、そこには、絵本の専門家で、幼児教育や保育の専門家の長谷雄一さんという方がおられました。ひょんなことから、病気の話になり、僕と同じく糖尿病だったこと、さらに透析をされていることを知りました。絵本をたくさん紹介してもらい、絵本の世界がぐんと広がりました。週に3回の透析、大学での講義など忙しい長谷さんですが、その合間を縫って営業されていました。一冊の絵本をめぐって、みんなで語り合ったり、お話を聞かせてもらう絵本トークにも、何度もお誘いを受け、参加しました。そのたびに、絵本の世界の奥深さを知ることになりました。コロナの影響を受け、また長谷さんの体調にも影響を受け、しばらく絵本トークが開かれていませんでした。
先日、「アンパンマンの秘密」について、勤務先のオープンカレッジで話をするんだけど、よかったらとお誘いを受けました。新・吃音ショートコースの前日の金曜日のことでした。大学は、明石市よりまだ先の大塩という駅が最寄り駅でした。そこからスクールバスに乗りました。片道2時間以上、透析を続けながら、長谷さんは、週3回、この大学に通っておられるのです。「週3回が透析、週3回は大学。休みなしですよ」と笑っておられましたが。
豊岡短期大学姫路キャンパスが正式名称でした。
緑に囲まれた、自然豊かなところにありました。スーツにネクタイ姿の長谷さんを見るのは初めてでした。「一方的な講演ではなく、参加者に問いかけながら進めていこうと思っています。初めての試みなのですが」と聞いていました。
午前10時半、「アンパンマンの秘密」のお話が始まりました。
1.アンパンマンは、誰が考えたの?
作者は、やなせたかしさん。これは、みんなが知っていることでした。やなせさんは、2013年、94歳で永眠されています。
2.メロンパンでもクリームパンでもよかったのに、なぜアンパンなのか?
発想は2つだそうです。やなせさんが子どもの頃みた絵本雑誌に「青い鳥」のお話があり、そこにパンの妖精が出てきてびっくりしたことがひとつ。もうひとつは、中学校のとき学校をさぼって映画を観に行った。その映画が「フランケンシュタイン」で、再生できる、生き返ることができるという話だった。パンの妖精と生き返ることができる、この2つから、アンパンマンの話の発想を得たとのことでした。
やなせさんは、アンパンが好きで、一緒に暮らしていたおじいちゃんによくアンパンを買ってもらった。また、小4のとき、隣町に遊びに行き、帰ろうとしたらさいふを落として、帰りの電車賃がなくなっていた。仕方がないので、線路沿いに歩いて帰ろうとしたとき、友だちのK君とそのお母さんに声をかけてもらった。不安だったときに、声をかけてもらい、おまけにおやつにとアンパンを買ってもらった。それがおいしくて、うれしかった。このことから、アンパンマンが主人公のお話になったそうです。
3.人気の秘密は?
①顔が丸いこと。子どもは○が好きで、○は描きやすい。ドラえもんもオバQも丸い。
②仲間がたくさんいること。やなせさんが亡くなったときに発表された仲間は、2,100いた。
③困っている人がいたら、顔を提供するなど、正義の人だったこと。
④アンパンマンワールドでは、お金のやりとりがないこと。
⑤敵にやられて危ない!というときと、「アンパーンチ!」とやっつけるときの、2つのクライマックスがあること。
⑥ロールパンナちゃんの存在。悪と良、光と闇のように、人間の心にある2つを表している。 ⑦何よりも、お話の発想がおもしろい。
そのほか、「アンパンマン」という音が言いやすいこと、赤色が使われていて認識しやすいこと、弱いところももっているヒーローだということ、など、参加者からもたくさん人気の秘密が出てきました。
おもしろかったのは、アンパンマンのあんこは、こしあんかつぶあんか、という問いでした。僕は、自分が粒あんが好きなので、粒あんかと思いました。答えは、粒あんでした。あんこは、アンパンマンにとって脳みそのようなもので、脳みそは、こしあんのように均質でサラリとしていてはいけない。粒あんのように、でこぼこしている方が、いろいろと柔軟に考えることができるからなのだそうです。
3.アンパンマンの三間とは?
ムーミンの話を聞いたときにも出てきた「三間」のことにも触れられました。「三間」とは、相談できる「仲間」、ゆとりある「時間」、癒やされ安らげる「空間」です。アンパンマンに仲間は2,100もいます。困っている人を助けるときは必死なのでパン工場に戻ってくるとゆったりできる時間ができます。そして、パン工場の2階の部屋が癒やされ安らげる空間なのです。
最後の問いかけは、ジャムおじさんは、どういう存在なのだろうか?でした。アンパンマンは困っている人がいたら、その人を助けますが、そのアンパンマンを支える人の存在が大事です。それがジャムおじさんだというのです。
お話を聞いていると、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
アンパンマンの世界、広く絵本の世界に浸ることができました。久しぶりに長い時間、電車に乗り、プチ旅行気分を味わうこともできました。
絵本カフェにまた行って、いろんな絵本の世界へ案内していただこうと思います。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/10/17
