認知療法・認知行動療法のワークショップの後で自分を否定せず価値認める 吃音を受け入れる
映画「ぼくのお日さま」の全国公開のお知らせを挟んだので、大野裕さんによる認知療法・認知行動療法のワークショップのしめくくりができていませんでした。
日本経済新聞の「こころの健康学」というコラムで、大野裕さんが、僕たちの集まりに参加したことを書いてくださいました。紹介します。
自分を否定せず価値認める 吃音を受け入れる
先日、日本吃(きつ)音臨床研究会の集まりに参加した。認知療法について二日間の講習をしてほしいという依頼だった。認知療法というのは様々な精神疾患に効果があるとされている精神療法だ。吃音を持つ人たちがそうした治療法になぜ関心を持ったのだろうと、不思議に思いながら会場に出かけた。
研究会の代表を務める伊藤伸二氏の話では、以前、このコラムで人前で話すのが苦手だということを紹介したのを読んで親近感を持ち声をかけたということだった。
しかし、認知療法の講習会を依頼してきたのはそれだけが理由ではなかった。研究会では吃音を事実として受け入れることを大切にしようとしている。そうした視点が、自分なりのとらわれから自由になり現実に目を向けて問題に対処しようとする認知療法の視点と共通しているのではないか、と考えて声をかけたという。
人前でどもることで自信がもてなくなることがある。まわりの人の目が気になるし、自分がダメな人間に思えてくる。気持ちがふさぎ込んできたり閉じこもりがちになったりする。事実として存在している吃音に、自分なりの否定的な評価を下し気分や行動がマイナスに向かっていく。
吃音で困ることはあるだろうが、自分の存在を否定的に考えることはない。会場で話した人は皆、魅力ある人たちだった。吃音で気づいた言葉の美しさや大切さを伝えたいと教師の道を選んだ人がいた。苦情処理の部署に配属になり、吃音で困りながらも頑張っている人もいた。
吃音という事実は事実として受け入れ、自分を否定することなく価値を認める。認知療法が大切にしている考え方を実践しようとしている人たちと出会え、貴重な体験になった。
こころの健康学(日本経済新聞 2006年11月28日 慶応義塾大学保健管理センター教授 大野裕)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/09/15