第17回吃音親子サマーキャンプ~今年の卒業式~

 「スタタリング・ナウ」2006.10.21 NO.146 では、第17回吃音親子サマーキャンプの特集を組みました。この年も、卒業式があり、その卒業式にスポットを当てて紹介します。小学生の時から参加している子どもたちが高校3年生になり、卒業していく、思春期のこの子どもたちの姿は、頼もしく、心強く、そしてまぶしいです。
 サマーキャンプ最終日、最後のプログラムのラストを飾った卒業式の様子をライブ感覚でお届けします。

伊藤伸二 去年の4人に引き続き、今年も3名の卒業生がいます。実はこんなに卒業生を毎回毎回送り出せるとは、我が吃音学校では思っていなかったのですが、すごい優秀校になったような感じがします。じゃ、3名の卒業生、どうぞ。卒業証書を読み上げます。

 卒業証書 ゆうこさん
 小学校4年生から高校3年生まで途中抜けることもあったけれど、7回、山口県から参加しました。初めのころは、どもってはいたけれど、それほど深刻には考えていなかった。そういうあなたが話し合いの中で、真剣に考える仲間に出会って、少しずつどもりのことや自分のことを考え、語り、人の話を聞くようになりました。そして、自分を支えてくれた友だちの存在の大きさに思い至りましたね。陸上を続けてきて、得たものも大きかったことでしょう。これからも自分の決めた道をひたむきに走り続けてくれることを願っています。
 サマキャン、卒業おめでとう。

ゆうこ このサマーキャンプに初めて参加したのは、小学校4年生のときで、そのときは、今、卒業証書にあったように、吃音のことを全然深刻に考えていなかったし、こんなにいっぱい参加するとは思っていませんでした。でも、参加してみて、友だちがいっぱいできて、ほんとに楽しくて、吃音のことをすごく深く話せる友だちがいて、すごくうれしかったです。このサマーキャンプに参加できて、うれしかったです。このキャンプを支えてくれたスタッフの皆さんに感謝しています。来年はスタッフとして参加したいので、よろしくお願いします。

ゆき(友人として) 私が小学5年生のとき、ゆうこちゃんが初めてキャンプに参加しました。最初は、ドッチボールの投げるボールがすごく強くて痛かったり、ということを覚えています。プログラムの中の話し合いもだけれど、夜みんなで抜け出して話し合いの続きをしたりして、あっ、それはずっと前の話ですけど(爆笑)、いろんなことを話しました。今年は受験だけれど、それを乗り越えて、参加してくれました。来年、もっと素敵な女性になって、またサマーキャンプで一緒にスタッフとしてがんばっていきましょう。

 卒業証書 まいさん
 小学4年生から高校3年生まで、途中1回だけ抜けたけれど、8回、大阪から参加しました。初めて劇をしたときは、からたがこちこちになって、せりふを言い終わった後、泣き出してしまいました。でも、2年目は、小さな子の手をつなぎ、その子を気遣いながら劇をしていました。そして、少しずつせりふの多い役にと、1年1年挑戦し、成長していっている姿を見て、とてもうれしかったです。控えめな中に芯の強さを見たようです。
 勇気がなかったことをどもりのせいにして逃げていたのではと気づいたあなた。大きな一歩を踏み出しましたね。いつまでも私たちは応援しています。
 ずっとそばで見守り続け、同じく8回参加したお母さんへも、心をこめて、サマキャン卒業おめでとう。

まい ありがとうございました。私は、キャンプに来るまで自分だけがどもっていると思っていたけど、キャンプに来て、たくさんの人がどもっているということが分かりました。はじめ、友だちができるか心配だったけれど、ゆうこちゃんと仲良くなることができて、そして、三人の先輩とも仲良くなれて、うれしかったです。このキャンプでいろいろなことが学べたし、8回参加できてよかったです。来年もスタッフとして来たいので、よろしくお願いします。

伊藤伸二 子ども以上にはしゃいで、喜んで、8回連続して参加したお母さん、どうぞ。

まいの母 この日が来るのが嫌で嫌で、子どもはスタッフとして参加できるけれど、親の私は来年からどうしようかと、まだあまり想像がつきません。小学校4年生のときに初めて参加した時の劇の上演で、娘のまいはせりふが言えなくて、終わった後も泣き出してしまいました。私は、母親ですけど、胸がいっぱいになって、そばに行くことができなかったんです。そんなときに、スタッフがずっとうちの娘をひざに抱えて、何も言わず抱いてくれてたことがすごく心に深く残っています。スタッフの方たちの思いやりや温かさがうれしかったです。私は、このキャンプに参加するまで、自分のことを責めていました。このキャンプに参加して、先輩のお母さんの話を聞いて、あっ、そうじゃなかったんやな、と楽にさせてもらいました。そして、翌年からは人が変わったようになんだかとてもはしゃいでました。でも、これでも、私は私なりに一応悩んできたんです。多分、来年から、私に会えなくて、さびしい思いをするスタッフの方々もたくさんおられると思います。もしかしたら、そこの窓にはりついて見ているかもしれませんので、そのときは声をかけていただけたらうれしいです。本当に8年間、たくさんの思い出の宝物をいただいてすごく感謝しています。ありがとうございました。

 卒業証書 はるなさん
 小学校6年生から高校3年生まで連続7回、千葉県からサマーキャンプに参加しました。「私はこのキャンプで、先輩から考える力と自分を表現する力を教えてもらいました」3年前のサマキャン卒業式のとき、あなたが言った送辞のことばです。このことばこそ、17回続けてきたキャンプで、私たちが大切にしてきたことです。どう生きるかを考え、自分のことばで自分の思いを語り、そんな力を身につけてきたあなたのキャンプでの言動は目を見張るものがありました。あなたが名づけてくれたサマキャンは、キャンプに参加するみんなの合い言葉になりました。
 サマキャン、卒業おめでとう。

はるな 今年で7回目で、卒業になっちゃったんですけど、小学校6年生のときに、初めて来ました。来る前はあんまり乗り気じゃなかったんですけど、一回来たらもう毎年行くのが普通になっていて、受験の年でも参加しました。キャンプに参加して、吃音のことを一生懸命考えるうちに、吃音のことだけじゃなくて、ほかに自分が普通に暮らしていてつらいことがあっても、そのことについて自分なりに考えられるようにもなったと思います。吃音の部分でもすごいプラスになるものをもらって、吃音からもらったプラスになるものが、吃音以外のところでも生きてるなというのを最近すごく実感しています。やっぱりキャンプに来てよかったなあと思いました。キャンプに来ている友だちも、無条件で、信じられます。みんな同じようなつらい思いをしてきているので、話し合いの場になって、少しずつしゃべっていくと、全て口に出して言わなくてもなんとなく分かる気がします。このキャンプに来ている人は、どもっている人もそうでない人も、無条件に信じることができて、すごい落ち着ける場です。
 最後に、小学4年生くらいからずっとしつこく私を誘い続けて、小学6年生のときにこのキャンプに連れてきてくれたことばの教室の先生の高瀬先生と渡邉先生に感謝しています。ありがとうございました。

伊藤伸二 このキャンプは、吃音親子サマーキャンプと名づけてるとおり、子どもだけの参加はできません。中学生で、ひとりだけの参加というのはお断りをしていますし、もちろん、小学生がひとり参加するということはできません。だから、どうしても母親代わりが必要になってきます。その母親代わりとして見守ったお二人、どうぞ。高瀬さんと渡邉さんは、千葉県のことばの教室からずっと参加してきています。

高瀬 三人、卒業おめでとうございます。私も1年目はやっぱり心臓が破裂するんじゃないかくらいのどきどき感が三日間あって、すごく気持ちも体力も疲れたんだけど、新幹線の中でも興奮状態で、千葉に帰った1週間も興奮状態でした。うまくことばで言い表せないものを心の中にもらって帰りました。そういう得たものを、はるなちゃんにも感じてもらいたいなという思いがあって、しつこく誘いました。知らない世界に来るというのは、大きな勇気がいると思うんですけれども、どうしてもここに誘いたいなと思って、お母さんに母親代わりをするから連れていくので、行かせてくれますかと聞いて、送り出してくれました。でも、母親代わりはしなかったと思います。初めて来た年から、一切私のところには来ないで、部屋に入ったとたん出てこないで、仲良くなった、今でも大切な友だちのみんなと一日目からうれしそうに過ごしていたのをよく覚えています。それが一緒に心のつながりを深くしながら、こんなに大きくなりました。精神年齢は、はるかに私よりはるなちゃんの方が上だと思います。語る力もあるし、考える力もあるし、しっかりしてますけれども、ほんとはもろいところもあって、そう見えないけれども本人の中ではすごくくずれそうな時もきっとあったと思います。そういう姿を近くでずっと見てきました。小学校を卒業した後も、つき合わせてもらえて、私につき合ってくれて、私も一緒に感じて、考えて、一緒に7年間を過ごせたのが宝物です。私の心の中もすごく変化したと思うので、とてもありがたい7年間です。来年は、先生でもないし、母でもないし、対等にスタッフという仲間として、一緒にこの先やっていけたらなあと思っています。それが夢です。なので、来年、また来ましょう。

渡邉 毎年、サマーキャンプ3日目は、ぼろぼろに泣きます。今日もお母さんたちのパフォーマンスで、今千葉の私の教室に通ってきているお母さんたちが一生懸命表現しているので涙を流し、子どもたちの劇を見て涙を流していました。そして、最後にこれなので、さっきからずっとぼろぼろ泣いているので、カメラをお持ちの方は、撮らないで下さい(笑い)というくらいの感じです。はるなちゃんは、同じことばの教室で、グループ活動で一緒に活動することが多くて、小さいときから見てきました。おかっぱで、いつもヘアバンドをして、ほんとにかわいい女の子でした。すごく芯が強くて、自分の思っている主張をしっかり相手に伝えることのできる小学生でした。今も、それは続いています。人にも厳しく、自分にも厳しいはるなちゃんだったと思うんですけど、今では、人とのかかわりとか、人のことを思いやったり、人の気持ちを聞いたりすることを、このキャンプに来てしている姿を見て、ああ、なんかスタッフかなあと思うくらい、ほんとに高校生、中学生とは思えないような行動をしていたなあと思いました。
 はるなちゃんみたいになってほしいなと思って、今、通ってることばの教室の子たちにも、「こういう子がいてね…」「こういうことをするといいよ」「こういうお姉さんもいたんだよ」と紹介することがあるんです。いつもいつも理想のお姉さんでいてほしいなあと思っています。小さいときからかわいくて、大好きなはるなちゃんなんです。キャンプがこれで最後だということは、来年一緒にスタッフとして働けるのかな、動けるのかなと思うと、さみしいようなうれしいような、なんか複雑な気持ちです。さっき、お昼ごはんを食べながら、とうとうもう終わりなのかなと思って、私たちの方がドキドキして、後ろの方でこそこそぐちぐち泣いていたんですけれど。来年は一緒にスタッフとして、私もがんばりますので、やさしくして下さい。今まで楽しいかかわりをさせてもらって、よかったなあと思います。卒業、おめでとう。

高瀬 はるなちゃんのほんとのお母さんから手紙を預かってきました。代わりに読みます。

はるなの母 はるな、サマーキャンプ、ご卒業、おめでとうございます。小さいときからおしゃべりが好きで、はっきりものを言う子でしたから、お友だちと衝突することもあり、関係のない吃音を持ち出され、傷つくこともありました。ひとりで我慢したこともあったでしょうが、私に話してくれた時は、脳みそふりしぼってことばを探し、励ましたつもりでしたが、どれだけはるなの支えになれたかは分かりません。でも嫌なことをひとつ乗り越えるたび、少しずつ心が強くなりました。それは、吃音に関係ないことも含めてです。前にも言いましたが、生きていく中で無駄なことってないですね。吃音をもっていることですばらしい人たちに出会いました。はるなの人生に関わってくれました。全く知らない他人だったのに、はるなを支えてくれています。サマーキャンプでは預けっぱなしで、大変申し訳なく思っていますが、毎年キャンプから帰ってくると、もう来年行くことを考えているはるなを見るたびに、実りある充実した3日間だったのが分かります。ことばの先生方もたくさん分かって下さり、心から感謝します。また、子どもたちの話に一心に耳を傾け、みつめ、支えて下さる伊藤伸二さんをはじめスタッフの方々に心から感謝申し上げます。はるなは、私たち夫婦だけではなく、皆様に育てていただいた娘だと思っています。最後にはるなへ、これからもはるならしくがんばって下さい。はるならしくって難しいかもしれないけれど、自分を信じていいということです。その中でいろいろなことを学んで下さい。傲らず(おごらず)、倦まず(うまず)、怠らず。

伊藤伸二 卒業式が無事に終わりました。17年間キャンプを続けてきて、ほんとによかったと思います。今年、特にそう思いました。まさか、4年生のときから参加した子がスタッフになって、スタッフミーティングで発言している姿というのは想像もできなかったことでした。これから毎年毎年、新しいスタッフが増えてくると、スタッフに試験を科して制限をしなければならないときが来るかもしれない、それくらいスタッフが増えていく、それは大変有り難いなあと思います。
 このキャンプを一緒に支えてくれている僕の仲間であるスタッフの方たち、立って下さい。
(スタッフ全員立つ)
 これだけの人たちが交通費を払い、参加費を払い、こちらがお願いしますと言ってないのに勝手に(笑い)参加して下さいました。そんなスタッフに支えられて、17年間もやってきました。この人たちに感謝しています。この人たちがいるからこそ、僕たちは続けられています。またこれからも続いていけるような気がします。20回までは吃音親子サマーキャンプがんばります。20回の吃音親子サマーキャンプにはお揃いのTシャツなんかを作ったり、記念イベントをしようと思います。これから連続して20回まで参加をぜひしていただければと思います。
 さあ、最後です。皆さん、立って下さい。そして、横の人と肩を組んで下さい。肩が組めなかったら、手をつないでもらってもいいです。皆さん、知っていると思うけれども、「今日の日はさようなら」という歌を歌いましょう。

  いつまでも絶えることなく 友だちでいよう
  明日の日を夢みて 希望の道を
    空を飛ぶ鳥のように 自由に生きる
    今日の日をさようなら また会う日まで
  信じ合う喜びを 大切にしよう
  今日の日はさようなら また会う日まで
(ハミングの中で)
伊藤伸二 ちょうど今から21年前に、僕は京都で第一回の吃音国際大会を開きました。世界11力国40名の海外代表が集まり、400人が参加した国際大会の最後のフィナーレで、この「今日の日はさようなら」を歌い、目をつむって、横の人の肩の温かさを感じながらハミングしたのを今思い出しています。そのとき、僕は「これまで僕はどもりが嫌で大嫌いだった。だけど、どもりで悩んできたから世界中の人たちと出会えた。そして、これからも世界の人と出会っていく。そう思うと、ほんとにどもりでよかった」と、あいさつをしました。多分、このキャンプに参加している人たちもどもりでなかったら出会えなかった人たちでしょう。子どもたちにとって、こんなにたくさんの親以外の大人の人たちが一所懸命に考えてくれる場と出会うということはおそらくないだろうと思います。そういう点で、ある意味、現代の中での奇跡に近い空間だと、僕は思っています。この場を、これからまた少しずつ続けていきたいなと思います。
 じゃ、また、来年、会いましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/09/03

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