第33回吃音親子サマーキャンプ スタッフの感想~安心に満ちていた吃音親子サマーキャンプ~

 吃音親子サマーキャンプが終わってから10日経ちました。後の細々とした仕事をしながら、キャンプで出会った人たちの顔を思い浮かべています。疲れているだろうにと思うのに、すぐに感想を送ってくれた人もいます。参加者やスタッフからの感想が、今、ぽつぽつと届いています。へえ、そんなことがあったのか、へえ、そんな話をしていたのか、知らないエピソードもたくさん出てきます。それぞれに、3日間を楽しんでいただけたようです。
 今日は、今回初めて参加されたことばの教室担当者の感想を紹介します。不安な思いを持ちながら参加し、よく分からないままキャンプが始まり、その中でどもる子どもや保護者の声をしっかり聞き、感じ取ってくださったことがよく伝わってきます。

  安心に満ちていた吃音親子サマーキャンプ
                                                                     
                         ことばの教室担当者(初参加)

  この度は大変お世話になりました。現地に着くまでは心配と不安でいっぱいでした。しかし、今思い返してみると、前日にお電話をいただいた時からすでに、伊藤さんや溝口さんをはじめとするスタッフの方々の思いやりに包まれた『安心に満ちたキャンプ』だったなと感じます。
  駅に着いた瞬間から、スタッフの方ににこやかに迎えていただき、昨年参加した「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」でお会いした方が声をかけてくださり、一気に不安は小さくなりました。とてもありがたかったです。

  出会いの広場のレクも落ち着いたトーンの声で進行してくださり、まずは個人でできることから…と徐々に会場を温めてくださる展開でとても楽しめました。若干人見知りのところがあるので、いきなり接近戦だとどうしようと思っていました。(あとから、それぞれのゲームは劇に通じる伏線だったと知り、驚きました!)
 
 そして、話し合いです。初めて、中高生のみなさんとの話し合いに参加させていただきました。どうなるのかな、どんな話がでるのかな?と気になっていたところ、伊藤さんも気にかけておられたのがとても印象的でした。こうやって細やかに気を配ってくださっていることがみんなの安心につながっているのだなと感じました。

 当初、なかなか意見が出なかったですが、口火を切ってくれた子がいて、そこから話がつながっていきました。彼のどもりは結構な感じで、第一声を発するだけでもかなり体力を消耗するのではないか?と思うほどでした。しかし、高校ではクラブの部長さんだと聞き、どうやったらそんな風に強い気持ちで前向きにがんばれるのか、本当に立派な青年だな…と大変頭が下がる思いがしました。
 また、後から聞いたところ、彼はコロナ禍で声すら発することができなくなってしまったと知り、その時の彼・ご両親はどんなお気持ちだっただろうと胸が痛くなりました。しかしそんな中、彼を思う気持ちが伊藤さんとの出会いにつながり、伊藤さんからの具体的なアドバイスを誠実に実行し、自分で努力を重ね、今に至っていると聞き、ますます尊敬の思いが強くなりました。

  それ以外にも、今回初参加だった子どもたちへのお声がけもありました。涙が止まらなくなった子もいました。後で聞くと、「どうしてあんなに涙が出たのか分からない」と言っていましたが、そのくらい何とも言えない『安心感』があの場にはあるのですね。始まる前に、伊藤さんがおっしゃっていた約束。あのことがとても印象に残っています。「対等な関係での対話」、「傾聴」「この場で話したことについて、必ず秘密は守る!」この姿勢が子どもたちへの安心につながるのだと分かりました。
  話し合いは90分×2回ありました。伊藤さんは、当初より、腰が痛いとおっしゃっておられたので、きっと座っておられるのも大変だったのだと思いますが、それでも、身を乗り出して必死に子ども達の意見を聞き逃さないようにしようとされていました。そのお姿から『誠実さ』がひしひしと伝わってきましたし、その熱い思いが子ども達にも波及していくからこそ、彼らも何か話をしよう!と思うのだろうなとしみじみ感じました。
  「話し合いは2回ある。1回目から一晩置くことにも意味がある」と伊藤さんがおっしゃっていた通り、2回目は子ども達からの発言がぐっと増えました。その場でとても印象的だったのが、周りの「この人吃音じゃないかなあ」と思われる人に、自分ができることは何かを考えている子が多かったことです。それに対し、伊藤さんから、「あなたが、どもるままの。ありのままでいることで相手が何かしらをキャッチしたら、必然的に相手が何かアクションを起こしてくるかもしれない、それまで待つしかない」といわれていたのも心に残りました。私は普段から、自分が良かれと思ったことを周りの人たちに伝えると、すぐに動いてほしいと思うところがあります。それは傲慢だったなと改めて反省しました。これからは、こちらからの思いを投げかけたとしても、待ってみようと思います。

 あと、自分の思いだけを通そうとして、いくらどもっていてもしゃべりきるというのは違うのではないか?という投げかけも衝撃的でした。みんな本当によく考えていますね!彼の言う通り、自分の権利ばかりを主張するのではなく、お互いの立場を思いやりながらというのは、どこの場面でも大切ですよね。

 お芝居があるということは知っていたのですが、あれほどの大作を演じるのだとは全く予想していませんでした。また、2回とちょっとの練習時間で、果たしてどうなるのか、できるのか??と正直、心配でした。
 しかし、時間を大切に使いながら、大人や年長者の子ども達があれこれアドバイスをしていき、それらを子ども達が必死で吸収することで声の張りや表情、動きもずいぶん変わりました!
 本番では動きや態度が堂々とし、お客様に聞こえる大きな声を出し、セリフの読み上げも滑らかでした(それまでは逐次読みだった子が)!思わず引き込まれ、あっという間の一時間となりました。
  荒神山劇場に参加したみんなの表情を見ていると、それぞれが達成感に満ちているのが伝わってきて、本当にすばらしい取り組みだな、これに参加できる子は本当に幸せだな~と感じました。

 保護者のパフォーマンスも素晴らしかったです!ああいう取り組みを通して、保護者も当事者として一緒に考えていこうとしてくれますよね。普段の通級ではなかなか難しいですが、「保護者はお客さんではないのだ」というところは本当にその通りだなと感じました。

 ウォークラリーもよかったです。これまであまり話せていなかった方とじっくり話しができ、かつきれいな景色を拝むことができ、ほっとしました~。

 サマーキャンプの基礎講座もありがたい企画でした。これまで皆様が、どういう思いでキャンプを立ち上げられたのか、何を大事にされているのか、よくわかりました。
 ・最初の出会いを大切に
 ・楽しいばかりではなく、吃音にじっくり向き合う時間を
 ・いろんな表現・考え方に触れる機会を
 ・ただそこにいてくれる存在がある
中でも特に印象的だったのが
 ・人は自然と変わっていくのだから、変えようとはしない
 ・目の前の人に誠実に、自分の人生を懸けて関わっていく
 というところです。
 決して簡単なことではないですが、今回の2泊3日のキャンプ全般を通して感じさせていただいた、この2つのことを常に念頭において、これからも誠実に子ども達と関わっていきたいと思います。
 暑い中、丁寧にご準備くださり、私達を快く受け入れてくださった皆様に心から感謝申し上げます。
 
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/08/28

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