親は子どもの同行者

 今日は、8月14日。2日後の16日から2泊3日の第33回吃音親子サマーキャンプが始まります。
改めて33回という数字に、長い歴史を思います。たくさんのドラマがありました。
 芝居で一生懸命せりふを言おうとしている姿に感極まって思わず涙を流したことも、卒業していく高校3年生のあいさつに胸がいっぱいになったことも、荒神山へのウォークラリーの途中で急に大雨になりひやひやしたことも…、いろいろありました。
 今年の参加者は、ほとんどがコロナ後、キャンプを再開してからの参加者です。初参加も10組。初めて参加するスタッフも7人います。
昨夜は、初参加の人に電話をして、何か心配なことはないか尋ねました。みんな、どきどきしながら、16日を待っていてくださるようです。今年の参加者90名とともに、吃音親子サマーキャンプの新しい歴史の1ページをつくっていきたいと願っています。
 「スタタリング・ナウ」2006.8.24 NO.144 の巻頭言を紹介します。キャンプ直前にぴったりのタイトル「親は子どもの同行者」です。

親は子どもの同行者
                   日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 「親や教師は、子どもに対して、たいしたことは何もできないが、一人の対等な人間として子どもに向き合い、誠実にかかわれば何かが変わる。子どもには変わる力がある」

 子どもがどもって話してきたとき、その話に一所懸命耳を傾けながらも、この話し方をしていれば、学校でからかわれたり、いじめられたりしているのではないか。学校だけでなく、クラブ活動や、生活の中で苦労が絶えないのではないか。親としてできることならどんなことでもしたい。そう考えるのは親の自然な思いだろう。
 親は、子どもが悩みを話してきたとき、うろたえたりしないで冷静にその悩みを聞き、理解し、整理し、解決したり、適切にアドバイスをして励ましたいと考える。しかし、親が子どもの全てを理解し、将来を見通して、子どもが快適な生活と、順調に成長する手助けをするというのは不可能なことなのだ。
 人の心の内面の世界は深くて複雑で、刻々と変化していく。穏やかに流れている時もあれば、激しい流れの時もある。学童期・思春期の子どもは、まさにその流れの中にある。子どもの周りも刻々変化し、子どもの気持ちも刻々変化していく。周りの状況も、本人も、今その時その時を、一瞬一瞬を生きている。一度役に立った方法が、次も役に立つとは限らない。一瞬一瞬が違うものだと考えた方がいい。親は子どもを完全には理解できないし、完全な手助けはできない。つまり、たいしたことはできないのだ。
 その前提に立った上で、親は子どもに何ができるだろうか。子どもの変わる力を信じて、子どもと一緒に肩を並べて歩く、同行することだろう。
 同行する場合、対等な人間として関わることが、とても大切なことだと私は考えている。子どもが困っていることを解決し、悩みをなくしてあげるのではなく、一緒に考え、相談し、工夫していくのだ。親が一方的に何かをしてあげるというのは、対等ではない。対等とは、悩み苦しむのも一緒にということだ。指導する対象として見ないということだ。一歩先を歩んで、道を踏みならし、転ばないようにするということではない。一緒につまずいたり、転んだり、泣いたり笑ったりして、一緒に起きあがればいいということだ。
 ともすれば親は、子どもに「学校、どうだった。何もなかった?」と聞きたがる。子どもは常に話す存在で、親は常に聞き手に回る。子どもの気持ちや考えは聞いても、自分の気持ちや考えを話さないのは対等とはいえない。子どもの吃音の経験を、子どもの思いを、どう理解し、どう受け止めたか。何を思い、何を感じたか。自分の思いを率直に語る。喜びやうれしさなどの明るい感情だけでなく、不安や怒りなどの暗い感情も含めて分かち合うことが大切だ。
 私はよく、親に、自分の子どもの頃のくだらないことをして叱られたことや、現在の悩みや失敗を子どもに話してほしいと言う。親にも、子どもの時代があったはずなのに、悩んだ時代があったはずなのに、それを子どもに話そうとしない。親が悩みや苦しみから立ち上がってきた経験は、現在悩んでいる子どもが問題と向き合うヒントになるかもしれない。
 子ども自身に変わる力があると信じて、子ども自身が自分の力で変わっていくプロセスを見守りたい。子ども自らが育ち、変わっていくのだから。子どもが変わっていく中では、親は常に脇役でしかない。
 しかし、吃音というテーマを生きる子どもに同行するためには、親は吃音について正確な情報を得て、勉強しなければならない。
 そして、吃音をマイナスのものととらえるのではなく、私の言う「ゼロの地点」に立って子どもと共に歩み始めるのだ。このゼロの地点に立つまでには、親には大きな役割がある。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/08/14

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