ことばの教室における吃音児童グループ活動の実践

 どもる子どものグループ指導が、近年、増えていることを、研修会に参加して感じています。コロナの影響を受け、少し状況が変わってきたかもしれませんが、大人のセルフヘルプグループがずっと続いてきているように、子どもたちにとってもグループの力は大きいようです。
 今回、「スタタリング・ナウ」 2006.3.25 NO.139 に掲載している、日野市のことばの教室のグループ活動の実践を紹介します。その歩みを丁寧に綴った実践報告です。

ことばの教室における吃音児童グループ活動の実践
  東京都日野市立日野第二小学校 きこえの教室・ことばの教室「せせらぎ」  楠雅代

 日野市は、土方歳三や、井上源三郎の出身地で、新撰組のふるさととも言われています。市の中央には浅川、北東側を多摩川が流れ、東京の中でも、まだ、田園風景の見られる、人口17万人の街です。
 日野市立日野第二小学校は、校舎の南側には大きな浅川が、北側には、透き通った用水が流れています。教室名の「せせらぎ」は、教室の開設準備に携わった多くの方々が、その豊かな自然から、考えてくださった名前です。きこえの教室は平成9年度に、ことばの教室は平成11年度に開設されました。
 今回、平成15年度から始めた、吃音児童グループ活動の3年間の実践を報告する機会を与えて下さった伊藤伸二先生に、紙面をお借りして感謝を申し上げると同時に、お読み頂く多くの方々から、忌憚のないご意見、ご感想を頂戴したいと思います。
 実践報告に先がけ、初回相談、吃音のアンケート、保護者会について、吃音指導と関連のある部分だけ、お話します。

【初回相談】    

  [保護者の初回相談]
 せせらぎの指導の対象は、小学生ですが、幼児の相談も受けており、4・5才の吃音の症状が出て間もない子も時々、やってきます。多くは、お母さんが、我が子の吃音を心配して、電話をかけていらっしゃいます。ある程度、お話をお聞きしたところで、初回相談の日時をお伝えする段になると、
 「吃音のことは、家庭では触れないようにしているから、どう説明して、子どもを連れていけばよいか?」
 「そのような所へ連れていくと、子どもが傷つくので、親だけが相談したい」
 という方も、時折いらっしゃいます。
 そんな時には、検査によって子どもを傷つけるようなことはしないということを理解していただけるようにお話します。そして、子どもは、どんなに幼くても、たとえ親が、話題にしていなくても、自分の話し方に気づいており、だからこそ、吃音の相談にのってくれる場所があることを、きちんと子どもに伝えてから来てほしいとお願いします。
 保護者担当は、保護者と共に、モニターで子どもの様子を見ながら、面談を行います。生育歴や、吃音歴の他、現在の心配事等の聞き取りをします。一方で、吃音の症状や、進展悪化、波等、吃音についての簡単なガイダンスを行います。
 そして、吃音の症状がある程度軽くなることはあっても、完全に消えるような指導技術を当教室がもっていないこと、自分達が行っていることは、子どもが、自分の吃音に向き合い、吃音と共に生きていくことを支援するということもお話します。

  [子どもの初回相談]
 吃音に限らず、相談で来室する全ての児童に、家庭のこと、園、学校生活の聞き取りや、構音検査等、同じ内容で実施しています。聞き取りの中で、「せせらぎ」に通級している児童の様子や、指導内容を説明をした後で、来室理由も、必ず訊きます。吃音のことで相談に来る子ども達は、皆、自分の話し方に気づいており、悩んでいることがわかります。
 私自身、今に至るまでに紆余曲折はありましたが、現在は、子どもが求めていると感じた時には、初回から、吃音のことを話題にしています。幼くても、吃音全般の大まかな説明をし、その子の吃音の症状についても話します。さらに、吃音を完全に消す方法が見つかっていないことも伝えます。
 それにより、「ことばの教室」に、一縷の望みをもってきた子どもは、落胆もするようですが、自分が一番気にしていることに正面から向き合い、真剣に話をしてくれる大人に出会えた、という喜びにも似た驚きを感じてくれるようです。

【吃音のアンケート】

 平成15年に吃音グループ活動を開始するにあたり、当時の担当者で検討し、児童用、保護者用、在籍学級担任用を作成しました。同じものを現在も、学期の始まりや、年度末に使っています。
 子どもにとって、節目節目に、アンケートを通して、どもる場面や状況、相手、その時の感情や、行動等を具体的に振り返らせることは、時に、辛く、哀しい出来事を思い起こさせ、その時の感情を追体験させることがありますが、その時の思いのままではないこと、その時の自分のままではないことを、自分自身で気づく機会となっているように思います。
 また、以前のアンケートと比較して、吃音の症状、行動、吃音に対しての考え方の変化がわかり、自分が精神的に成長していることも、改めて実感できるようです。そして、時には、この先の行動目標を具体的に考えるきっかけにもなっています。
 子どもに、アンケートをとる時には、保護者にも必ずアンケートを実施しています。保護者も、以前のものと比較して、我が子の変化や成長を改めて感じ、そして、ご自身の吃音に対する考え方の変化を知る機会にもなっているようです。担任の先生用は、アンケートに答えることで、吃音の子どもへの接し方のヒントになるようなものを考えて作成しました。それによって、担任の先生方が、ことばの教室に期待することもわかりましたが、忙しさに紛れ、十分に活用しきれていない現状です。今後は、内容の再検討、実施方法が課題です。

【保護者会】

 開設当初は、ことばの教室全体の保護者会を行っていました。しかし、吃音の悩みと他のことばの悩みを共有して話し合うことの難しさを感じ、グループ活動開始の15年度から、吃音の保護者会を単独で行っています。今までに、伊藤伸二・日本吃音臨床研究会会長、信國久子・元横浜国立大学講師をお迎えして、講演会を兼ねた保護者会も開きました。その時には、市内の小・中学校、幼稚園、保育園にも案内を出し、せせらぎの卒業生の保護者にも声をかけます。講師の先生のお話だけではなく、中学生になった保護者の方々のお話は、低学年や園児のお母さん方の悩みを軽くして下さっています。

【吃音児童グループ活動開始の経緯】

 平成15年度に、吃音の通級児童が5名に増え(1年生2名、2年生2名、3年生1名、全て男子)、それぞれが、在籍校では、唯一どもる存在であり、親子双方が、孤独感や不安を感じておられました。親子にとっては、「せせらぎ」を共通の悩みを抱えている者に出会う場として、教師にとっては、完全には、吃音を消すことのできる技術をもたずして、どのようにどもる児童へ関わっていけば良いのかを考えていく場として、三者が、共に「吃音」に向かい合う場としてのグループ活動がスタートしました。

平成15年度
・月に1回、実施。
・児童担当(楠)のメインティーチャーとサブティーチャー、保護者担当を決め、それぞれの役割を年間を通して同じ者が行う。
・活動内容は、吃音や、グループ活動についての話し合い、ことば遊び、調理、キックベースボール等、児童担当が子ども達に提案する教師主導で行った。話し合いを除いては、活動を楽しむことで結果的に、話すことが増えるような内容を考えた。
・保護者は、内容によっては、一緒に活動に参加。それ以外は、待合室で、モニターを通して、子ども達の様子を見ながら、保護者担当のリードのもと、子どもの家庭での様子や、兄弟関係、吃音にまつわる悩み等を話し合う時間とした。

 〈経過〉
 グループ活動の1回目には、子ども達にこのグループ活動を始めた理由を話しました。
 「メンバーは皆、どもること。全員が、学校では、唯一どもる存在であること。共通の悩みや辛い体験をしていること。だから、他の人のことを、全員が自分のことと同じように考えられること。そんな仲間と一緒に、吃音のことを話し合ったり、楽しいことをしていこう」
 そして、吃音のアンケートに答えてもらいました。この時は、初めてのアンケートでしたので、担当が質問を読み上げながら、答えてもらいました。
 印象深かったのは、お互いに用紙を見せ合い、「何個、ついた?」「俺なんか、全部○がついちゃった」「そうそう、同じ!」…と、気軽に言い合っていたことです。アンケートは、児童、教師、(保護者は、待合室で)にとって、その後に続く話し合いをしやすいものとしてくれました。子ども(保護者)にとっては、どもる仲間といっても、まだ、気心も知れず、教師にとっては、当たって砕けろで始めたグループ活動であり、皆がドキドキしてのスタートでした。
 その日のアンケートに、B君は、「友だちになりたいです」と書き、A君のお母さんは、「本日のような吃音の児童だけのグループ指導は、本人にとって初めての体験であり、良い刺激になると思います。また、息子以外のどもる子どもと会ったことがないので、私も、子ども達と接するのが楽しみです」
 と書いていました。
 2回目以降は、日直を決め、日直が、出席、開始、終了の挨拶をすることにしましたが、この日直が、子ども達にとっては、吃音に直面するやっかいな役となりました。個別指導場面では、ほとんどどもらなくなっていたD君、E君が、グループでは、ひどくどもる上に、手助けさえも拒み、涙を流すことが、何度かありました。
 一方で、1番の年長で、吃音の症状の重いA君は、机に両足を載せる、机の下に潜る等、在籍学級では見せたことのない、傍若無人とも見える態度を続けました。それに、B君、D君、E君が、小規模ながら追随し、C君は、それをあっけにとられて黙って見ているということが、続きました。
 E君のお母さんは、それを見て心配になり、「自分の躾の問題でしょうか?」と訊きに来るほどでした。
 グループ活動を始める前は、どもる仲間の中にいるのだから、どもることを気にせず、安心して話すだろうと予想していましたが、子ども達の様子は、大きく違っていました。子ども達の地に足のつかない不安気な様子は、他の子のどもる姿が、自分のどもる姿と重なり、安心感より、不安を増幅させていたのかもしれません。
 しかし、平行して、個別指導で、グループ活動での出来事や、吃音についての話し合いを続けることで、それぞれが、自己洞察を深めていることを実感していましたので、私の中には、いずれ、子ども達が、自分自身で行動を変えていけるだろうという自信のようなものがありました。
 2学期になり、D君は、せせらぎという同じ場所でありながら、グループでは、緊張し、消極的になる自分を自覚し、グループ参加が、自分の課題であるとお母さんに宣言しました。
 E君は、他の子の態度に影響を受けなくなる等、それぞれが、落ち着きを見せ始めました。
 11月には、成人の吃音の人に会わせることを企画し、大阪から伊藤伸二先生にグループ活動に来ていただきました。当日は、担当者が、子ども達が訊きたいと思っていること、また、子ども達に聞かせたいと思うことを質問して、答えてもらうという形で授業を行いました。子どもからは、年長のA君が、将来の就労について質問をしました。
 「これからの夢は?」という最後の質問に、伊藤先生が「どもる少年を主人公にした映画を作ること」と答えられた時には、全員が歓声を上げました。伊藤先生との出会いは、どの子にも強烈な何かをもたらしたようでした。
D君:「伊藤先生は、メチャメチャどもっていたけど、格好良かった! また、会ってみたい。せせらぎでなら、もっと話がしたい」
E君:「どもる大人にはなりたくない!」
B君:「伊藤先生がどもりながら話すのは、格好悪くなかったけれど、自分がどもるのは、格好悪いと思う」等々…
 3学期には、他のグループとの合同で、キックベースボールを楽しみ、年度末には、保護者同室で、1年間のグループ活動を振り返って、感想や意見を出し合いました。

平成16年度
・メンバー、回数、担当は、前年度と同じ。
・活動内容は、1回毎に、リーダーを決め、リーダーが考えたことを全員で行うという児童主導に変更。

〈経過>
 1回目は、吃音のアンケートを行い、1年前のものと比較をさせ、それぞれの、変化や成長を考えさせました。A君、D君はチェック項目が減り、1年前より、話しやすくなっていると感じたようでした。E君は、逆に増えていましたが、「前より、いっぱい話すようになったからかな」と自らを分析していました。
 その後、今年度の活動を児童主導でいくことを話しましたが、子ども達は、それをすんなりと受け入れ、不安そうな様子はありませんでした。ジャンケンで、いつ、誰が、リーダーをやるのかも簡単に決まりました。
 子ども達が計画したのは、ドッヂボール、サッカー、サンドイッチ作り等でした。リーダーになる子は、事前の個別指導の時に、何をやるのかを担当と話し合いました。準備する物のお知らせを作ったり、また、5人でやるためのルールを考えたり、それを文書にしてまとめる等、各自が、自分で計画、準備、当日の説明や進行を行いました。
 前年度、日直の挨拶だけでも、緊張していたことを考えると、大きな飛躍でしたが、全員が、その日は、「自分が仕切る!」と、自らを奮い立たせ、臨んでいることが感じられ、終わった時には、どの子も頬を紅潮させ、満足そうでした。
 2学期には、A君、B君、E君が、「せせらぎに来なくても大丈夫になってきた」と、自ら、個別の通級回数を減らしました。C君は、逆に「個別指導が自分にとって大切な時間」と言うようになり、D君は、「もう、強くなってきたから、せせらぎ辞めても大丈夫じゃない?」という担当に向かって、「僕は、まだ、どもっているから、来るも~ん!」と明るく返すようになってきました。
 そんな中で、B君は、3学期には、通級の終了を自分で決めました。年度末の「終わりの会」で、B君が、「どもりは、まだあるけれど、何も困ることはなくなったので、せせらぎを終わりにします」という内容の作文を読んだ時には、他の4人の子どもから、[エーッ!!」というどよめきの声が上がりました。
 それは、そろそろせせらぎを終わりにしても大丈夫そうだけれど、まだ決断できないという状態にある子ども達にとって、先を越されたという思いをもたせると同時に、B君の強さを感じさせたようです。そして、それぞれに、来年度の通級の必要性を考えさせる問いにもなりました。
 B君が、辞めることになり、来年度のグループ活動は、存続も含めて、新年度になってから相談するということで、この年は終わりました。

平成17年度
・メンバーは、5年生1名、4年生1名、3年生2名の4名。児童担当は前年度と同じ。
・活動内容は、全員が揃わないことが多く、そのため教師主導、保護者同室で実施。

<経過>
 5月の1回目に、今年のグループ活動をどうするかを話し合う予定でしたが、A君は、欠席、C君、D君、E君3人のスタートでした。職員の異動があり、この日、新しい担当がグループに初参加していましたが、皆、緊張と言うより、改まった様子で、落ち着いて自己紹介をしました。
 その後、アンケートを元に、吃音についての話し合いをしました。3人ともに、「吃音は、消えてはいないけれど、生活に支障はない。でも、吃音が消えるのであれば、消えてほしいと思っている」と非常に正直な気持ちを言っていました。
 前年度末のB君の終了が、子ども達には、大きな後押しとなったようで、各自が、進級の変化に動じなかった自分に自信をもち、この頃には、A、D、E君は、せせらぎの終了を具体的に考え、「グループだけで良い」と言うようになっていました。
 一方C君は、担当との個別の時間に、今までになく、自分の気持ちを話すようになり、グループよりも、個別指導の必要性を強く感じ始めていたようです。
 6月のグループは、D君とE君の二人だけでした。前回、「次回は、自分を語ると題し、今までの自分の変化や成長を話してほしい」と予告していました。まず、D君が、「自分は幼稚園の頃から、せせらぎに来ていて、その頃は、どもりがひどくて、全くしゃべれなかった。でも、今はちがう。自分は変身した。それは、自分が、頑張ろうと思ったから」と、一つ一つ思い出すように、考えながら、そして、少し照れくさそうに話しました。
 その後、E君が、「いろいろな人にどうしてそんな話し方なのときかれて、辛かったこともあったけれど、その一人一人に、自分の癖のようなものだからと説明してきました。今でも、どもるけれど気にせず、生活しています。今、自分は、漢字検定に取り組み、頑張っています。…」と、まるで、原稿を読んでいるかのように滑らかに、尚かつ真剣に話しました。すぐ横で聞いていたD君は、E君の話し方は勿論のこと、その話の内容、そして、この発表の為に、E君が、真剣に考えてきたことを感じ取り、「すごい! すごい!」と繰り返しつぶやいていました。
 二人の発表の後は、お母さん達に、お子さんの成長を話してもらいました。両名のお母さんは、共に、吃音があっても前向きに生活していることを話して下さいました。
 この日、D君、E君が、自分は変わったと繰り返し言うので、私が、冗談で、「それは、もしかしたら、私のお陰かな?」と訊くと、二人とも、大きく首を横に振り、「ううん、違う。自分で変えた!」と、あまりにきっぱりと言うので、全員で大笑いするという一幕もありました。
 1学期は、結局、全員が揃うことはありませんでした。その後、教室内で2学期以降のグループ活動をどうするかを話し合いました。その結果、早晩、子ども達は、せせらぎの終了を自ら決めるであろうから、自分たちの成長をきちんと発表する機会を与え、それを伊藤先生に見てもらおうということになりました。
 タイミング良く、民放のTBSの「報道の魂」というドキュメンタリー番組で、日本吃音臨床研究会主催の吃音親子サマーキャンプの様子や、小学生の話し合いの場面や、中学生、高校生のインタビュー場面が放映されました。昨年、退級したB君親子にも知らせ、伊藤先生が教室にいらっしゃる1週間前に、そのビデオを子ども、お母さん、せせらぎ担当の全員で見ました。(残念ながら、A君は欠席でした。)
 見た後の話し合いの中で、B君、C君は、級友から、繰り返される吃音への質問や、からかいを止めてもらいたくて、担任の先生に自ら頼み、先生から、学級全体に話してもらうことで、その後は、そのようなことがなくなったという体験を披露してくれました。また、私からは、映像の中にあった、「将来、吃音が自分のマイナスにはならないと思うか?」を子ども達に問いました。
 それには、つい最近まで照れくさがりやだったD君が、「頑張って勉強して頭が良かったり、格好良ければ、マイナスにならないと思う」と、きっぱりと答え、一同納得と頷きました。
そこで、次回は、今日話してくれたような自分の成長を作文にまとめて、伊藤先生の前で発表してほしいと伝え、終わりました。この日、作文の宿題に難色を示す子は、一人もいませんでした。欠席したA君には、活動の様子と作文の主旨を伝え、ビデオを貸しました。
 さて、伊藤先生との2年ぶりの再会の日。1番に来たのは、A君でした。私の顔を見るなり、「作文が用紙半分だけどいい?」と訊いてきました。貸したビデオも家では、音声が出なかったので、よくわからなかったとのこと。開始までに40分あったので、A君親子には、ビデオを見てもらうことにしました。そして、「作文は、書きたいことが書けているのであれば、長さは関係ないこと」を話しました。
 次々にやってくる子ども達は、皆、引き締まった顔つきで、教室に入ってきました。緊張を解きほぐす為に、座席をゲームで決め、席についてから、全員で「伊藤センセ~イ!」と呼ぶと、「ハ~イ!」の明るい声と共に、颯爽と入ってきて下さいました。
 子ども達の発表の前に、まずは、私がドキドキしながら、作文を発表しました。なぜなら、子ども達は、この1週間、この日を迎えるにあたって、自分自身を問う時間を過ごすのだから、私も同じ時間を過ごそうと思ったことと、私自身は、吃音はないけれど、どうにも解決できない悩みがあり、生きにくさを抱えているということは同じであることをきちんとことばに出して伝えたかったからです。
 私に続き、いよいよ子どもの発表です。発表の順番は、ジャンケンで負けたE君が、トップでした。E君は、用紙3枚にわたる作文をしっかりとした声で、読み始めました。途中、2年生の時に吃音を真似されたことや、吃音のことを訊いてくる相手一人一人に、癖になっているんだと答えていたという箇所では、こぼれそうになる涙をこらえるために、声がうわずりましたが、立て直し、「2年生までは、早く治りたいと思っていました。でも、今は、去年のB君の卒業作文を聞いたり、先生やお母さんと話したりして、(このままでいいじゃん)と思ったので、無理に治さなくてもいいと思っています。今まで、頑張ってきたので、これからも頑張っていけると、僕は思います」
と、最後は、力強い声で、読み終えました。
 ただでさえ緊張する今日の中にあって、最も緊張する1番手を立派にこなしたE君の真剣さは、参加者全員の心に大きく響くものがありました。自然と拍手が沸き起こりました。
 すると、2番手のA君が、「よくわからないまま、作文を書いてきちゃったから、変えていい?」と訊いてきました。開始前、用紙半分の作文を気にはしていたものの「このままでいい!」と言っていたA君でしたが、E君の発表が、彼の心を動かしたのです。書いてきたものを全く見ずに、「小さい頃から、どもっていて、せせらぎに来る前にも、別な所へ通っていて、小学校に入ってからは、せせらぎに通った。まだ、どもりはあるけれど、生活に何も困ることはなくなったから、これで良いと思う」と発表しました。
 続いてB君は、「僕は、どもりが、治ると思って、せせらぎに通い始めました。楠先生と、どもってしまっても安心して、自分の考えを言う経験を重ねてきました。グループ活動で、初めてどもる友だちに会いました。その時、僕みたいな思いをしている人がいたんだと思いました。どもりは、治るかもしれないと思っていたのが、伊藤先生に治らないかもしれないと告げられて、ガクリときました。けれど、先生の話を聞いて、自分なりの考えが浮かんできて、どもってしまっても最後までしゃべれるようにしようと思った。考え方も変わって、どもりは治さなくては、いけないものだと思っていたけど、今は、治んなくてもいい、そこをどう生き抜いていくかを考えるようになりました」という作文を披露しました。
 C君は、「(前略)…今まで、話し方を馬鹿にされて、泣いたことがあったけど、担任の先生が、せせらぎで勉強していることをみんなに話してくれて、あまり、馬鹿にされなくなりました。3年間、劇団でレッスンをしたので、人の前で発表したり、音読したりするのは平気です。たまにつまって言葉が出ない時があります。もっと上手に話せるようになりたいけど、今の話し方でもダメだとは思いません」
 D君は、文字の丁寧さからも、真剣さが伝わってくる作文で、「僕は、幼稚園の年長の2学期にせせらぎに入りました。最初は、人の前に立つと何も言えませんでした。でも、今はちがいます。なぜかというと、手を挙げて自分から発表するようになりました。たまに、言いづらい言葉があるので、小さい声で練習してから言う時があります。(中略)・・・もっと勉強して、格好良くなって、性格がよければ、大人になっても大丈夫だと思います」
 全員が、読み終えた後は、やり遂げた安堵感と満足感、そして、皆が共に成長してきたことを実感した喜びの表情をしていました。
 子ども達に続く、お母さん達の発表も、それぞれに胸を打つものがありました。子ども達は、お母さんが、自分の苦しかったこと、それを乗り越えてきたことを見守ってくれていたことを改めて感じたようです。そして、自分の良いところ、成長したところを皆の前で話してくれたことが、何よりも、嬉しく晴れがましいことのようでした。
 最後に、伊藤伸二先生が、「吃音の辛い体験をして、吃音が消えないけれど生きていこうと思えるようになった皆さんは、素晴らしい。でも、思春期は必ず、揺れ動き、再度、吃音のことで悩む。しかし、一度でも、辛さを抱えて生きてきた体験は、その人の免疫力という力になり、再び、吃音と共に生きていくことができるようになります」
と締めくくって下さり、感動の内にこの日のグループ活動は終わりました。
 3学期の1回目は、『報道の魂』で、「私からどもりをとったら何もない。どもりがあるから私なのだ」とインタビューに答えていた、島根県のろう学校の教員佐々木和子氏が、『治すことにこだわらない吃音とのつき合い方』(ナカニシヤ出版)で自ら書かれている、吃音にとても悩んだ時期を経て、今があるという体験談を聞かせました。
 2月には、親子そろっての茶話会形式で、来年度について話し合います。来年度は、進級に伴い、さらに全員が集まることが難しくなることが予想され、継続するならば、長期休業中の開催や、回数の検討が必要です。
 また、小学校卒業後、思春期以降の支援については、『スタタリング・ナウ』(No.136号)で報告されていた、神戸市立稗田小学校きこえとことばの教室で実践されているような、「出会いの場」を作る必要性を感じています。

 この3年間のグループ活動で、子ども達が、どもる仲間との出会いを通して、共に成長をしてきたことを、そこに参加した子ども、保護者、教師、全ての者が実感しました。
 真に「出会い」は、「人と自分」を変えていくのだと思います。日本吃音臨床研究会の伊藤伸二先生との出会いが、グループ活動に繋がったことを改めて感謝すると共に、これからの出会いを大切にしていきたいと思います。(了)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/07/22

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