第7回ことば文学賞
「スタタリング・ナウ」2005.3.20 NO.127 の巻頭言、「私は書き続ける」の紹介後、ことば文学賞の受賞作品を紹介するつもりでいたのですが、うっかりして、次の号の巻頭言を紹介してしまいました。元に戻ります。
大阪スタタリングプロジェクト主催の第7回《ことば文学賞》の受賞作品を紹介します。
ことばや吃音について、そして自分について、文章に綴り、私たちの体験を多くの人に届けよう、文章を通じて語り合おうと始まったことば文学賞は、ひとりの人の人生にふれることのできるいい機会ともなっています。
第7回の応募作品は、前年と同じ15点でした。これまでの選考者の高橋徹さんに代わり、高橋さんの朝日新聞記者時代の後輩であり、日本吃音臨床研究会とのおつきあいの長い五孝隆実さんに、講評と選考をお願いしました。五孝さんは、自分自身がどもる人であり、仲間として強い関心をもって、1986年8月、京都で開いた第1回吃音問題研究国際大会会長の伊藤伸二のことを、朝日新聞の名物コラム「ひと」欄で紹介してくださいました。
2005年1月21日(金)の大阪吃音教室は、ことば文学賞の発表でした。誰が入賞したかは、誰も知りません。応募した人はもちろん、大勢の参加者が、わくわくしながら集まってきました。
では、その日の教室の様子から紹介します。
第7回ことば文学賞 受賞作品発表の大阪吃音教室
まず、薄緑色の冊子にまとめられた応募の全作品を読んだ。作者自身が読んだものもあるし、参加していない場合は、代わりの者が読んだ。15点全てを読むと、かなり長時間になるが、どの作品にも、作者の思いがあふれていて、うなずきながら聞き入った。そして、その中から、まずは参加者で、いいなあ、気に入ったなあと思う作品を挙手で選んでみた。
「どれにしよう」、「あれはもよかったなあ」、「こっちもいいなあ」、そんな声があちこちから聞こえてくる。上位3点が決まった。
いよいよ五孝さんによる選考の発表だが、この日、どうしても参加できない五孝さんに代わって、コメントを紹介しながら発表した。今回、私たちが選んだ作品と五孝さん選考の作品が見事に3点とも合致した。違うのもおもしろいけれど、ぴったり合うというのも、なんともいえずうれしくなってくる。
選考にあたって、五孝さんは、《書くこととは》《応募作品を読んで》という2つの文章を寄せてくださっている。これまで文章を書くことを生業としてこられた人のもつ厳しさと、同じどもる人としての温かさを両方味わうことのできる文章である。受賞作品につけられたコメントも、うなずけるものばかりだった。長く、私たちの活動を見つめ続けてきた方ならではの視点がうれしい。
◇◆◇書くこととは◇◆◇
・書くということは、自分の考えや思いなどを人に伝えることです。人にきちんと伝わらなければ意味がありません。わかりやすさが基本です。いわゆる名文であることは二の次です。読む人の心、頭にすっと入っていける文章の構成、言葉の選択が問われます。
・何を伝えたいのか。書く作業を通して、考えや思いを整理する、掘り下げる、突き詰めていくことが大切です。どこまで整理し、掘り下げ、突き詰めていけるか。その作業が書く本人にとっても魅力だし、読む人を引き込む原動力になります。
・他人の文章を読むのは、かなりしんどい作業です。たいがいの人はしたいことがいっぱいあります。だから、書く側は簡潔な文章に徹した方がいいでしょう。意味不明なところなど、ちょっと蹟く個所があると、もう読んでもらえないものだと考えた方がいいでしょう。
◇◆◇応募作品に寄せて◇◆◇
・どの文章も、吃音をどう受け容れるか、その苦悩を語っていて、同じ経験をしている私は胸をうたれました。
・スムースに言葉が出ないことはつらいに決まっています。伝えたいことが伝えられないし、ほかの人と違う自分が恥ずかしい。どもりであることが自分のすべてだと思ってしまい、劣等感にさいなまれます。ここまでは自然な心の動きでしょう。要は、このあと、どうするかです。
・伊藤伸二さんの文章の魅力は、悩みながら繰り返し繰り返し考え抜いてきたことから来ていると、いつも感服しています。作文のテクニックではなく、内面の葛藤が文章力を鍛えたのだと思います。
・初めて読ませてもらって素直な文章が多いのに感心しました。逆に言えば、もっと心の中を掘り下げてほしかったという気持ちも否めません。人を引きつける文章は心の葛藤をさらけ出して初めて書けるような気がします。
・ただ、文章の巧いか下手かは、人によって評価が異なると思います。素直に書くのが一番だと私は思っています。
・技術的なことを少し書けば、全体に文章が詰まりすぎています。もっと整理し、さらに改行をもっと増やした方がいいと思います。それだけでも読みやすくなります。少なくとも途中で読むのを放棄されることから、いくらかでも免れます。(「スタタリング・ナウ」2005.3.20 NO.127)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/05/20