竹内敏晴・大阪からだとことばのレッスン 公開レッスン2004年3月

 昨日の日曜日は、絶好のお花見日和でした。マンションの敷地の桜も、1週間前には堅いつぼみだったのに、一気に満開に近い状態になっています。今日の雨が花散らしになってしまわないか、少し心配です。もう少し、あの淡いピンクの花を楽しみたいです。
 現実の社会は、世界の情勢も日本の政治も、嫌なニュースばかりですが、自然は変わりなく移ろい、そのありがたさを感じています。

 公開レッスンを終えた竹内敏晴さんのエッセイ「春 うごく」を紹介しました。そのときの公開レッスンに参加出演した2人のどもる人の感想をします。吃音のために、積極的にコミュニケーションをとってきたとはいえない2人の、舞台を経験した後のみずみずしい気持ちが綴られています。

  観客の空気を感じながら
                                  藤谷征一
 朝9時から舞台を作って、ライトの下で実際に練習してみると、暗い客席の部分が少し不気味で、普段の練習とは全然感じが違いました。客席に観客が入っても同じ事ができるんだろうか、と不安になりました。普段より動きがぎこちなくなって、今まで言われた事が出来ているんだろうか、本番で出せるんだろうか、と思いました。
 6月から定例レッスンに参加させてもらって半年経ちましたが、だんだんと「声が出てきたね」と言われる様になって、自分でもそれを感じる事ができて来ました。
 中二の時に友達に吃音をからかわれて以来、吃音を隠そうとして会話を避ける様になって、できるだけ話さない様にしました。
 一年前から毎週、大阪吃音教室に通い出して、最近やっと吃音がある自分を受け入れる事ができてきて、前より自分からだいぶ話しかける様になってきました。
 苦手な会議での学生の発表でも、発表中にどもって声が出なくなって「まずい!」と思ったときに、竹内さんに教わった感触が湧いてきてなんとか言い切った場面がありました。
 定例レッスンで気付かされる事は多く、例えば感情的になった方が相手によく伝わる、と思っていたのですが、そうではない事を呼びかけで体験して気づくことができました。
 吃音を少しでも軽くしたいと思うばかりだったのですが、それよりも人間関係や表現や発声をする上で大切な事があったんだ、と気付かされました。
 四郎は普段の自分とは違って、引っ張っていく役だったので、自分には違和感がありましたが、でもこうなれればいいなあという役で、やってみてよかったです。
 さて、会場いっぱいに観客の方々が入って、うれしい半面緊張が高まりました。自分の番が近づいて来て、どもって芝居の流れを止めないか不安になりましたが、笑う所は思い切り笑おう、考えずに思い切りやろう、と自分に言い聞かせました。
 いよいよ自分の番で、頭が真っ白になりながらとにかくセリフを言っていきました。竹内さんに言われた、お腹いっぱい・・のセリフは堂々とあごを引いて、不思議なものに対する訝しいさも出す、と、セリフを言ったあと身を引かない、が頭に浮かびました。
 吃音の不安は常に頭をよぎっていましたが、吃音のことは全然感じさせず楽しんでいたと言ってもらい、うれしかったです。自分の番の終わりごろに疲れて声が出にくくなりましたが、なんとか言い切れてほっとしました。観客の空気がよかったそうで、後から考えると自分も観客の空気のおかげで声が出せていた感じがしました。
 狐の生徒で観客の方々も参加されて、よりおもしろくなったし一体感を感じました。参加された方みんな練習より本番の方がよりよくて、いきいきして見えました。終わってから、今でも時々芝居中の四郎の感触がよみがえってきます。充実した時間に参加させてもらって、よかったです。

  引き出してもらった声
                               新見哲也
 声が自分でもびっくりするほど出たので、とても気持ちよかったです。とにかく勢いよくいこうと思っていたのですが、いざとなると足がすくみ、浮き足だっような感じだったのが、(ずいとはいって)で、舞台にあがってから何かふっきれたような感じがしました。後は上田さんに後押しされるような感じで、自然にからだが動いていったように思います。また、「うるさいわい。さあ来い」と言って中野さんのうでをつかんでひっぱる時に、その場でぐっとふんばってもらえたので、私もその分ぐっと力が入り、舞台から力強く押し出すことができたので、声も力強く出たように思います。ふり返ってみると、自分で声を出したというよりか、何か声を引き出してもらえたような感じがして不思議でした。今回、みなさんからよかったと言われ、また自分なりにも精一杯だし切れたので、とてもうれしくて楽しかったです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/04/08

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