NHK Eテレ ハートネットTV フクチッチ
1月29日(月)午後8時、番組が始まりました。3時間半ほどのインタビューの映像、資料としてお貸しした冊子、書籍、写真などが、どんなふうに使われ、構成されているのか、楽しみにしていました。
初めは、4人のどもる人が登場し、自己紹介をして、それそれの体験を語りました。その中のひとり、大学生で看護師をしている女性は、高校生のとき、静岡の吃音キャンプで相談を受けた人で。どもるたびに「すいません、すいません」を連発し、下を向いてぼそぼそと小さな声で話す彼女に、僕は、「すいませんを言うのはやめる。顔を上げて、どもっても言いたいことを言い切る。このことを1年間続けよう」と提案した。そして、1年後、彼女はまた僕に会いにきてくれました。再会したとき、雰囲気、表情がすっかり変わっていて、驚きました。僕が言ったことを実行したとのことでした。同じどもるにしても、ずいぶん違います。アドバイスをすなおに聞き、実行したことが、彼女の強みだったと思います。彼女からは、事前に、この番組に出るのだと電話をしてきました。弾むように明るく話すのが印象的でした。
彼女の経験も、他の3人の経験も、それぞれに、吃音とは何かということを説明していました。教員採用試験で、どもることを隠し、言いたいことが充分に伝えられなかった男性が、3回目の挑戦のときは、吃音を隠そうとせず、たくさんどもりながらも、自分の言いたかったことは言い切って採用合格通知をもらったと話していました。番組の底に流れるものが、治す・改善する、治すべきものとなっていないことに、安心しました。
ここまでで半分。いつになったら「吃音者宣言」が出てくるのだろうと思っていました。
そして、講談師の田辺鶴英さんが登場して、吃音の歴史を講談で語り始めました。デモステネス、ジョージ6世、楽石社の伊澤修二、そして、21歳の僕が登場しました。その後、セルフヘルプグループ言友会の創立へと話はつづきます。本当は、ここで講談師の田辺一鶴さんが出てくるはずだったのですが、時間の制限があったのでしょうか。田辺一鶴さんはどもりを治すために講談を始め、講談教室を毎週日曜日に上野本牧亭で開いていました。僕も講談教室に参加し、その講談教室の参加者と、東京正生学院の僕の仲間が知り合い、そこから言友会創立へという流れだったのですが、割愛されていました。フクチッチ初の講談だったらしいのですが、言友会創立と関係の深い講談の話が出てこなかったのは残念でした。視聴者には、なぜ、講談なのかという説明がなく、不思議に思われたのではないかと思います。講談で説明していく、講談師の田辺鶴英さんが田辺一鶴さんのお弟子さんなだけに、その関係を紹介しないのは、とても残念なことでした。間違いなく、田辺一鶴さんが言友会の創立のきっかけだったのですから。
講談の中で、何度か、「伊藤青年」ということばが出てきました。そして、「吃音者宣言」の登場です。宣言文の一部、とても大切な部分を文字として、また講談の中で語ってくださいました。会創立10年という節目に、多くの仲間の体験から生まれた「吃音者宣言」、格調高く聞こえました。
その後、「吃音者宣言」を受けた形で、愛知県の小山裕之さんが経験を語っていました。小山さんも僕の古くからの知り合いです。「吃音者宣言」に出会ったときの感動と、就職のとき、吃音であることを伝えたのは、「吃音者宣言」と出会ったからだと言っていました。小山さんの元気な姿を見ることができたこともうれしいことでした。
僕の家でのインタビューの映像も流れました。3時間半ほどカメラは回っていたはずですが、当日流れたのは数分?だったでしょうか。いや、もっと短いかも。でも、一番言いたかったことは、ちゃんと収められていました。
「人生の目的は、吃音を治すことではない。自分がいかによりよく生きるか。吃音は、決して人生を左右するほどに大きなものではない。それをきちっと受け止めれば、あなたの人生は豊かに切り開いていくことができるんですよ」。
これは、吃音とともに豊かに生きることができると伝えたかった僕からのメッセージでした。
全体のコメンテーターを務めたのは、金沢大学の小林宏明さんでした。小林さんのこともよく知っています。吃音と共に豊かに生きる、どもりながらも自分らしく生きる、そんな大きな流れに加えて、治したいという人がいる人たちの声にも耳を傾けていきたいとまとめておられました。「困ったら、言語聴覚士に相談をしてほしい」が最後のメッセージでした。フクチッチが子ども向けの番組であることを考えれば、同年代のどもる子どもたちが通っている、ことばの教室の存在にも触れてほしかったなあというのが、僕や、僕の仲間のことばの教室担当者からの率直な感想でした。
どんな番組になるか分かりませんが…、と前置きをして、友人・知人に、番組のことを知らせていました。見た人から、いろいろな感想が届いています。以前NHKのハートネットTVで「どもる落語家」として紹介された桂文福さんから、良かったという感想の電話がかかってきました。いろんな人が電話やメール、ファックスで感想を寄せてくれました。どこかで紹介できればいいのですが、その中に、吃音親子サマーキャンプに参加した保護者もいました。僕たちの知らないところで、親同士のつながりがあるようで、吃音サマーキャンプ参加の親45人で見たとメールがありました。45人という数字にびっくりしてしまいました。夏にしか出会っていない僕と、TVを通して、この寒い季節に会えたのがおもしろかったのではないでしょうか。
僕の話の奥には、吃音親子サマーキャンプで出会ったどもる子どもやその保護者、研修会や学習会、講演などで出会ったことばの教室担当者や言語聴覚士の人たちの思いがたくさんあります。それらの声を大切にし、僕自身の体験から見いだしたことばを、今、僕は紡いでいるのです。
見逃した人へのお知らせです。
再放送が予定されています。深夜なので録画をしてぜひ、ご覧ください。
2024年2月9日(金)00:45~ 木曜日の深夜
また、NHK for school という学校向け教材サイトで、いつでも短縮版が見られるそうです。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/01/30