大阪吃音教室の忘年会 ひとりひとりのスピーチ

 乾杯をしてから約1時間後、午後7時から、スピーチの時間です。今年1年、いえ、前の忘年会から4年、その間にあったいろいろなできごとを、また来年の抱負を、と伝えて、くじ引きで決まった席順でスピーチが始まりました。29人のスピーチの一部を紹介します。

・大学院を卒業して就職が決まった女性…最終面接で面接官から「ハキハキとしゃべりますね」と声をかけられ、そこから、吃音のことを話した。一時、吃音に悩んだが、吃音親子サマーキャンプでどもる仲間に出会い、吃音と向き合うことの大切さを知り、その関係で演劇に取り組んだことなど、話すつもりはなかったことだったが、話した。演劇の舞台での声の出し方や身振り手振りの多い話し方が、「ハキハキとしゃべりますね」という面接官のことばにつながったのではないか。無事、希望していたその会社の就職が決まった。
・小児科で働く言語聴覚士の男性…仕事が入っていたが、いろいろ工面し早引きしてこの忘年会に参加した。小児科に転職したばかり。いろいろ勉強したことが、日頃の臨床とつながっていることが多いと感じる。吃音チェックリスト、吃音氷山説、吃音キャラクター、言語関係図にど、学んだことを取り入れている。
・若者の支援をしている女性…仕事の中で、人の話をどう聞くかが一番のテーマになっている。また、今年は、いろいろなところで話す機会があった。自分の吃音のことが頭をちらつくこともあるが、それより、どうしたら若者支援の仕事について分かってもらえるか、どう伝えたらいいかなど、内容に注目するようになってきた。これは、大阪吃音教室で学んだことと通じる。一緒に吃音親子サマーキャンプに参加したどもる5歳の我が子が、演劇が気に入ったようで、幼児の演劇教室に通い出した。
・特許庁の仕事をしている男性…どもることに慣れてしまって、どもっても全然平気になった。でも、職場に着いたとき、「おはようございます」とあいさつをしようとするが、誰かひとりでもこちらを向いてくれたら、すっとことばが出るのに、みんなが下を向いて仕事をしている背中に向かって言おうとすると、「お」が出ない。どもることに平気になってきたのに、こうなのかと苦笑いしている。そんなときは、「はようございます」で済ませている。
・再任用で働く教師の男性…大阪吃音教室に初めて参加したのは、7年前の日曜例会だった。それから、7年間で大きく変化した。それは、吃音チェックリストに表れている。教員生活最後に、管理職から、もう一度小学校の現場に戻りたいと思っている。そのため、経験を積もうと、今年はカナダへの短期留学もしたし、英語の免許もとった。第二の人生をいきいきと送りたい。
・初めて忘年会に参加した高校3年生の男子…大阪吃音教室に参加して2年になる。毎回、いろいろなプログラムがあり、その講座を通して、自分があまり得意じゃない、自分を客観視することができるようになってきたことがよかった。どもりそうだと分かると、言いたいことを言えないままになっていたけど、今は、言いたいことはどもっても言おうと思っている。大学生になったら、環境が変わるけれど、自分から積極的にコミュニケーションをとっていきたい。
・最近、定年後に介護職に再就職した男性…介護職は、どもる人に向いていると実感。ゆっくり、大きな声で話さないといけない。早くしゃべらなければらないというプレッシャーもなく、のんびりと人の話を聞くことができる。
・ケアマネージャーをしていた男性…仕事でしんどいことがあり、来年、新しい仕事を探そうと思っている。そのときのしんどさを癒やしてくれたのが、サウナ。サウナで元気になってきた。今のマイブームだ。
・地方公務員の女性…仕事の関係で、患者会の集まりに行ったとき、雰囲気がとてもよかった。話したい人が話し、みんなが聞く、その雰囲気は、大阪吃音教室によく似ていた。病気が再発して10年ぶり、20年ぶりに患者会に参加する人がいる。久しぶりの参加に迷いがあったらしいが、そこで温かく迎えられたと聞いた。その場をずっと守ってくれ、運営してくれる人がいたからだ。そんな話を聞くと、本当に大阪吃音教室と同じだと思った。場の力を感じる。今日、久しぶりに「京橋」駅を通ってきたが、新人の頃、通っていた経路で、いろいろ思い出して懐かしかった。
・定年後、7月から新しい仕事を始めた女性…一人暮らしの高齢者の家に行って、そうじなどをする仕事を始めた。仕事が終わってから、その高齢者と話をする。話を聞くと、とても喜んでもらえる。どもっていても、自分も全く気にならないし、相手も気にされない。お互いに気分よく過ごせるので、続けようと思っている。
・詩吟を続けている男性…今、73歳。75歳まで働くつもりだ。詩吟を始めたのは、高校の先生にすすめられたからで、以来、ずっと続けている。(披露された詩吟は、とても73歳とは思えないものだった。大きく、透き通るような声の響きに聞き惚れた )
・13~14年ぶりに忘年会に参加した男性…波瀾万丈の日々を送ってきたが、今、ようやく落ち着いてきた。仕事も順調で、商工会関係の仕事を受けることが多い。なぜ仕事を回してくれるのか聞いてみたら、「ホームページのデザインができる人は他にもいるけれど、コミュニケーションができる人は少ないから」と言ってもらえた。吃音のため、コミュニケーションで悩んできたが、そのコミュニケーションで選んでもらえたというのが感慨深い。大阪吃音教室で学んだことが役に立っている。
・高校生のとき、吃音親子サマーキャンプに参加したことがある男性…吃音親子サマーキャンプに行ったとき、将来、仕事に就けるだろうかと悩んでいたことを、今日参加している人に話した。その人は、自分の体験を話してくれた。そのとき、言われた「専門性のある仕事を」ということばを支えに、自分もがんばってきた。今、その専門性を活かして仕事をしている。

 僕は、送られてきた1枚のFAXのことから話し始めました。「まだ、講演活動はされていますか」で始まったFAXは、岩手県のことばの教室の担当者からで、ずっと前に僕の話を聞いた人でした。来年1月9日の盛岡市で開かれる岩手県の大会での講演依頼でした。喜んで引き受けました。ちょうど、前日の1月6~8日は東京にいて、6・7日は、吃音プロジェクトのメンバーとの合宿、8日は東京ワークショップです。東京から盛岡に行くことになりました。
 
 参加者のスピーチを、メモを頼りに、ごく一部だけを再現してみました。改めて、こんな時間、空間が必要なのだと思いました。いい仲間といい時間を過ごし、とても幸せでした。いい年末で、今年をしめくくることができました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/12/27

Follow me!